人間は何故空を飛べないのか。皆が口を揃えて言う、答えは簡単、翼がないからだと。では、翼があれば飛べるのだろうか。それもたぶん無理だ。この世で翼を持ちながらも飛べない鳥というものが存在していて、理由はその鳥の祖先が住んでいた島は安全地帯だったせいで飛ぶ必要がなく、使わなかった機能が徐々に退化していたからだそうだ。そう考えると人間という種族はほとんど敵がいない。つまり、翼を使う機会がない。(まあ学校とかで飛ぶ訓練とか習わされるんだったら別だけど)だから人間は空を飛べない。だけど、実は人間はいつだって空を飛ぶことは出来るんだよ。ほら、何処か高いところへ昇って、そこから高く高くジャンプすればいいだけの話じゃない? 「もしもーし、サーン。それは飛ぶって言うより飛び降りるって言うんですよー」 私の後ろでフェンスにもたれかかった浜ちゃんが言った。浜ちゃんはフェンスの上に立っている私を見上げて「パンツ見えてるぞー」とついでに付け足す。別に、パンツくらい浜ちゃんになら見られても如何ってことないよ。私がそう言い返すとわお男前と能天気な答えが返ってくる。浜ちゃんにこの能天気さは好きだ。馬鹿だなこの人はって思うたびに私は安心する。浜ちゃんがいることが嬉しかった。グラグラして安定しないフェンスはいつ滑って落ちても可笑しくはなく、それでも浜ちゃんは「そんなところにいたら危ない」とかそういう心配の言葉をかけてこない。 「それで、サンは其処から飛び降りて何がしたいんですかね?」 「飛び降りるんじゃなくて空を飛ぶの!鳥みたいに!落ちたとしても一瞬でも飛べたなら本望だよ」 「やめてくれー、今日は俺の誕生日なんだぞー!」 「じゃあ今日のプレゼントは飛んでいく私ってことで」 「なんでそうなるんだよー」 いつも金網ではばかれていた景色はより一層、いつもよりも汚らわしく見えた。汚いもの、人間。でも、私もその一人。だけどさ、もし翼が生えたらそれは天使であって人間ではなくなるじゃない?私は汚らわしい人間とおさらばしたいの。例えば鳥のように飛べたならばその瞬間、私は人間とはおさらば出来るんだよ。それにね、浜ちゃん。 「私が今日、此処で飛べば浜ちゃんは私のこと忘れないでしょう?浜ちゃんは誕生日が来るたびに、私が飛んだことを思い出すことになるのよ」 「それじゃ俺、毎年誕生日が来るたびにブルーじゃん」 「いいじゃない、ちゃーんとプレゼント用意してくれる可愛い彼女とか作ればブルーな気分も吹っ飛ぶでしょ」 「その彼女が出来ないから困ってんのよ」 「浜ちゃんならすぐ出来るって。ほら今は留年してるから、下の学年の子とも接点が出来るでしょ」 「俺はがいい」 予想もしなかった言葉に驚いて「え」と声を上げて下へ視線を向けた。浜ちゃんは真剣な目で私を見上げてもう一度「がいい」と繰り返す。浜ちゃんのその真剣さにときめきを覚えたのに、浜ちゃんは「パンツ見えててちょっと俺としてはこの場から逃げたいんだけど、いい?」と間抜けなことを付け足した。プッと噴出して笑うと笑い事じゃないと怒られる。人間は嫌いだけど今生きている私も所詮は人間ってやつで、そんな私は、人間は、笑うことをやめないし、飛べないから歩くのだし、誰かを好きになることをやめたりはしない。それは私も例外じゃないんだよね。浜ちゃんは立ち上がって、私から逃げることの許可を得ようとしているようだけれど残念、そんなものあげるわけがない。「浜ちゃん、もうちょい右に行って」「…ここ?」「そーその辺」体を風景の見える外側から、浜ちゃんのいる内側へ向けた。浜ちゃんは馬鹿だけど素直な可愛い子。 「やっぱり、プレゼントは空を飛ぶ私ってことで」 「だーかーらー、それはブルーになるから嫌だって」 「ちゃんと受け止めてくれなきゃやーよ」 は?と唖然としている浜ちゃんを私は無視して、私は思い切りフェンスを蹴り、空を飛んだ。 飛べない僕らは 飽きもせず 「おめでと」浜ちゃんの肩をきゅっと抱き締めて、私は耳元で浜ちゃんにだけ聞こえるように言った。
[2007/12/15][title by インスタントカフェ][祝え!(略)様へ提出][HappyBirthday!!] |