榛名元希はわたしのことが嫌いなんだと思う。目が合ったら逸らされた。落ちた消しゴムを拾って渡してあげようとしたら引っ手繰られるように奪い取られた。話そうとしても目なんて合わせてくれることなんてなくて、空返事も多い。「今度の試合、応援に行くね」と秋丸と話していたら、通りかかった榛名に「絶対来んな」と睨まれた。授業中には視線が突き刺さる。 「わたし、何かしたかなぁ…」 わたしは、榛名のこと好きなんだけどなぁ。目が合ったら嬉しいし、逸らされると落ち込む。拾った消しゴムを引っ手繰られた瞬間に触れた手も熱い。空返事でも話してくれればそれだけでその日はラッキーディ。部活中の、投手としてボールを持って構える姿がカッコいいから、いくらでも見たかった。授業中の視線、痛いけど、わたしも穴が空くほど榛名を見てしまうね。ちょっと遠くで、笑っているところを見ると心が苦しくなって、息することさえままならない。ね、榛名。わたしもさ、此処まで嫌われてるとやっぱりキツイよ。 「うおっ、!?」 「…はる、な?」 「おま、なんで教室で泣いてんだよ!邪魔っつーか、迷惑っつーか!」 「……べつ、に、…放課後だし、誰もいないし、迷惑とかかかんないと思うけど、」 「オレに迷惑だよ!…あー忘れもんなんかしなきゃよかった」 なんで、わたしはこんなに嫌われちゃってるんだろう。泣いてるだけで邪魔とか、…(もしかしたら存在しているだけで邪魔かも)でも流れ出しているものは止まることもなく、寧ろどんどん溢れていて。もう、こんなに泣いてたらただでさえ嫌われてるのにまた嫌われちゃうよ。あ、嫌われてるからもうこれ以上嫌われることもない、か。…もう、如何でもいいや。腕を組んで、机にうつ伏せになる。 腕の隙間から差し込んでいた光が突然閉ざされる。うつ伏せにしていた頭を上げると、其処にはわたしを見下ろす榛名。「な、によ」わたしのこと、嫌いなんでしょ、嫌いなら嫌いでさっさと出て行けばいいのに。酷い人、だ。 「あー、なに?如何した?」 「(面倒、くさそう、だな)」 「…泣き止めよ、オレが泣かしてるみてーだろ」 「(あんたが、泣かしてるんだよ)」 ねえ、わたしが何したっていうの? ...... 放っといてと喚くを見て、放っておけるわけねーだろと舌打ちをした。はそれが気に入らなかったのか、オレを一瞥してから目を逸らして、拳を握る。あーあ、なんでオレはもうちょっと優しく言ってやることが出来ないんだろうか。如何してこいつに対して傷つくようなことばかり言ってしまうんだろう。嫌われるようなことばかり言ってしまうんだろう。 目が合えば、なんとなく気恥ずかしくて逸らしてしまう。落とした消しゴムを拾ってくれた時、素直にお礼なんか言えるわけがなくて思わず引っ手繰ってしまう。話をしようにも、心拍数を知られないことに必死で空返事が多い。秋丸に「今度の試合、応援に行くね」と言っていたので、醜い嫉妬心で絶対来るなと睨んでしまう。授業中、こっちを見てほしいような、逸らしてしまうから見てほしくないような、よく判らない気持ちのままずっと見てることだってある。 「(泣くなよ、)」 「…榛名は、…わたしのこと、嫌いなんでしょ、」 「(嫌いじゃねーよ)」 「嫌いなら、関わらないでよ…」 嫌いなんてこと、あるわけねーだろ。(寧ろ、嫌っているのは、)オレはな、ずっと見てきたんだよ。本当に、忘れもんなんかしなきゃよかった。そしたらこいつの泣き顔も見ないですんだし、それに対してオレが困るなんてこともなかった。また、こいつを傷付けるような言葉を言わずにすんだ。あーあー、なんでこう、上手くいかねーんだろうな、世の中って。オレのほうが泣いてしまいたい、そんな衝動に犯される。 クロスラインを燃やせ
頭に手を置かれた。驚いて一瞬跳ね除けてしまいそうだったけれど、その手が、普段の榛名とは想像つかないくらい優しいものだったから、そんなこと出来なかった。わたしは頭を少しずつ上げて、目の前にいる榛名を見上げる。夕陽で反射して榛名の顔はよく見えなかった。でも、嫌々やっている雰囲気じゃなくて、いつもわたしが見ている榛名とは全然優しくて、ごつごつした手とのギャップが妙に心地よかった。 「…はるな、?」 「嫌いなわけねーだろ」 拒絶される、って思ったんだ。だけどは頭の上に置かれたオレの手を気にする素振りもみせないで、ただじっとオレを見つめる。夕陽で反射して、顔はよく見えなかったけれどきっともう泣いてなかったと思う。なんでもいいから、泣き顔なんてもう見たいとは思わなかったから、オレはそのまま顔を逸らした。「なら、逸らさないでよ」声が聞こえて、もう一度の方に顔を戻すと、やっぱり夕陽でよく見えなかった顔は、笑っているようにも見えたんだ。 [2007/12/14][Thanks 20,000!][みゆきへ!] |