Happy Birthday!




女の子の結婚できる歳だね、ウエディングドレスが歳だよ。孝介のドレス姿が今から楽しみだそれから、今日は告白邪魔しちゃってごめんね。孝介って意とモテてて私びっくりしちゃったな。彼たら紹介しなさいよ!


それじゃ、また明日!









我ながら馬鹿なことをしたと思った。今日は、隣の家に住んでいて十六年間一緒にいる幼馴染の誕生日だ。毎年恒例でちゃんとプレゼントは用意したし、アイツの好きなものも判っているつもりだから迷うこともなかった。きっと孝介は部活が終わるのが遅いだろうから、帰ってくるのはあたしが寝てしまった後かもしれない。そう思ってカードも書いた。きっとこれみたら、「俺は女じゃねーよ」とか文句言いに来るんだろうなあ。


孝介は男であたしは女。ずっと一緒にいるから、あたしは孝介のことなんでも知ってるつもりだった。でも孝介はあたしの知らないところでどんどん男になっていき、成長してる。そしてそれはあたしも女として同じことであった。そしてあたしは、そんな孝介の成長を垣間見た時、孝介に恋をした。今までずっと隣にいたのに、初恋は幼稚園の時の先生だし次は同級生の男の子、中学の時は孝介の部活の先輩が好きだった。けれど、こんなところで遅くなった恋が開花するだなんて、ちっとも思わなかったんだ。だけどあたしが気付いたときには孝介は男らしくカッコよく(それでも大きなクリクリした眼が強調して、どちらかというと女みたいに可愛いけれど)なっていて、それに気付いているのは当然ながらあたしだけではない。要は、あたしは今日孝介が告白されているところを見てしまったので、ある。


なんて陳腐な展開、物語なのだろう。よくあるパターン。好きな人が、別の人に告白されているところを見るなんて。しかもタイミング悪く孝介に話しかけちゃって、雰囲気をぶち壊して邪魔しちゃった。…可愛い子だったな、あの子なんて名前だっけ?孝介はまだ小さいほうだけど、あの子はさらにちっちゃくて並んでいて可愛いカップル。孝介がどんな返事をしたかは知らないけれど、付き合うようになったらあたしは如何しよう。この恋を諦めればいいのだろうか。…たぶん、きっと今更無理だ。想いの大きさに気付いてしまったのだから。もし、仮に孝介が今回の告白を断ったとしても、これから孝介にそんなことする女、山ほど出てくるだろう。そうしたら、何時の日か孝介は誰かと付き合い始めてしまうかもしれない。たった二枚の窓越しに孝介と彼女の甘い話し声なんか聞こえてきたら、あたしは如何したらいい?付き合ってもないのに勝手に嫉妬塗れになったあたしはいつのまにか目元に水を浮かべて、カードに何粒かそれを零していた。ああ、いけないいけない。急いで拭いて、それを窓越しにある孝介の部屋にプレゼントと一緒においておいた。さっさと寝てしまおう、明日の朝にはちゃんと話せるように。


こんこん、窓を叩く音が聞こえた。あたしはそれを無視して寝たふりをする。きっと孝介だ。今は会わせる顔が、ないよ。




、起きてんのわかってんだぞ」




さすが、孝介。十六年一緒にいただけはあって、あたしのことよく判ってる。だけどそんな知識、今発揮しなくたっていいのに。しょうがないから、窓を開けた。部屋は暗いままだ。暗ければ、きっとあたしの顔ちゃんと見えないかもしれない、から。窓の入口で孝介はあたしの置いておいたカードを持っていた。




「これ、俺のドレス姿ってなんだよ」
「あはは、孝介なら似合うかなーって思って!」
「よーし歯ぁ食いしばれ」
「嘘デスすみませんでした孝介様!」




どうやら、涙の後とあたしの失態には気付いていないみたいだ。よかった、孝介が鈍感で。あたしがそう安心した矢先、孝介はカードのとある部分を指差して「それから、これ」と指摘した。ドキッ、心臓が一段と早くなる。どくんどくんどくん。




「そ、れは…」
「…滲んでて読みづらいんだけど。なんて書いたか教えてくんねえ?」




嘘だ。孝介はわかっていて、言ってる。昔からこんな風に新しい玩具を見つけて遊ぶ子供のように、あたしをいたぶることが好きなのだ、孝介は。あたしがさっき、無意識に書いて、急いで消した文字すら見抜いてしまって、それを理由に楽しんでる。「ほら、俺の誕生日なんだし、素直になろーぜチャン」ズルイ。誕生日という日を盾にして。逃げようと思ったら既に手首を掴まれていた。孝介は身を乗り出していて、今にもあたしの部屋へ移り込んできそうだ。




「こ、孝介、」
「ほら早くいわねーと俺が誰かに取られるかもしれねーぞ」
「じ、じいしきか、じょうなんじゃないの…」
「自意識過剰で結構。ほら、はやく」




早く早くと急かす孝介はまるで子供のようで、だけどそんな子供の要求にすらあたしは答えられなくて。黙り込んで俯いたら、手首を掴んでいるほうとは違う手であたしの顎を掴んで強制的に上を向かせる。「何、怖がってんの?俺が誰かに取られるかもしれないから?ずっと一緒にいたから今更気恥ずかしい?俺と幼馴染って関係が崩れるのが怖い?」「…ぜんぶ」「んじゃあ、その理由、言い訳に出来ないようにしてやるよ」孝介はあたしの手首を掴む手をさらに強めて、息を吸って吐いて、あたしに聞こえるように、確かに言った。…馬鹿、そんなこと言われちゃったらあたしも言わざるを得なくなっちゃうじゃんか。




(大切なのに滲んでて読み取れないんだ)(だから今すぐ言葉で伝えて)


[2007/11/13][title by Canaletto][俺嫁誕1129様へ提出][HappyBirthday!!]