今日の体育は野球だ。先生が適当に出席番号順でチームをわけたら阿部がAチーム、そして俺と花井がBチームとなった。試合って言っても全員が野球やってたわけじゃないからあまりスムーズには進まない。(なんせ、ピッチャーが投げるボールがストライクゾーンから外れたらフォアボールじゃなくてやり直しだしね!)(おまけになんの偶然か俺のクラスにはインドア派が多い)綺麗な弧を描くように打てるのは野球部とテニス部くらいで、綺麗にキャッチ出来るのはさらに野球経験のある人だけである。そして何の因果か俺は守備では部活と同じレフトにつかされる。(またもや先生が出席番号順に適当に内野と外野を振り分けたからだ)でも皆ボールを打つのはゴロか内野フライなんだよなあ。(部活は真剣に出来るのだけど)(学校の授業だとどうも、真剣になれない)あ、次のバッターは阿部か、注意しなきゃ打たれちゃうぞぉー。なんて思いながら見ていたら、ほんとに阿部のやつ打っちゃった、カキーンて。ボールは外野でレフトである俺の方へ飛んできた!でもこれなら届くなあー、オーライオーライ!とミットを上に翳したら、ポロ、っと




「あ」
「クソレフトーーー!!!」




弾いて、落とした。そしてファーストに投げたけれどもうそれじゃあ遅くて、一死一塁。え、しかも阿部がこっち見て笑ってるし、阿部って酷いやつだよまったく!ふと女子の方(女子は今日はランニング)を見ると息を切らして走っているさんと眼が合った。さんは苦笑いして眼を逸らす。…え、もしかして、見ら、れてた?






結局試合の方は、授業でやる分だから2回表までしか終わらなくて現在は1-0で負けている。ってそれは如何でも良いんだよ!問題は俺がフライを落としたところを見られたか否か!見られてたとしたら俺超かっこ悪い!好きな女の子の前ではカッコいい姿を見せてやりたいっていうのは当然の男心なのに俺は自らその機会を逃してしまったのである!うわーん、見られたくなかったよ!阿部と花井に愚痴っても「あっそ」「まあ、あれは…なあ」と興味なさげな答えと曖昧に誤魔化そうとしているものしか見当たらない。(阿部はもうちょっと俺に興味持ってくれてもいいと思う!)「さんに嫌われるー」野球部のくせにあーんな平凡なフライ落とすなんてやーねーとか、水谷くんって野球下手なんだ、かっこわるいとか、言われていたら如何しよう!!俺嫌われたら死んじゃうよ!「知るかよ、勝手に死ね」阿部が酷いよ!好きな子に嫌われるってどれほど辛いことか阿部は知らないんだろー!?「え、好きな、子?」え、なんか阿部声が高くなった?




「…ってさん!!」
「ご、ごめん。聞くつもりなかったんだけど、聞こえちゃって」
「うううううんそれは別にいいいよ!」




さんの顔はかすかに赤くて、可愛い。思わず頬が緩むのを必死に抑えて(だって嫌われたくないもんね!)それを誤魔化すように缶ジュースに口つける。…あれ、そういえばさん、好きな子が如何とか言ってなかったっけ?……えーーーー!!もしや全部声に出てたとか!?「おーい丸聞こえだぞー」え、マジで!?うわーあああ!俺相当末期症状じゃん!え、もしかして振られちゃうのかな?教室内で恥ずかしいこと言わないで!嫌い!とか?文貴ショックで寝込みそうです。




「水谷、くん」
「(ああ俺の初恋も終わりを告げるのかあ)」
「えっと、その」
「(初恋は叶わないってほんとうなんだなぁ)」
「わたし、も」
「(恋は片想いの時が一番楽しいっていうのもほんとうなんだなぁ)」


「私も水谷くんが好きです!」
「(甘酸っぱい青春おくりた……)…ぶへええええ!?」




思わず口に含んだオレンジジュースを吹いて、そのまま近くにいた阿部が俺の唾液の交ざったジュース塗れになったとさ☆怒られたけどまあいいよ!俺、今ならあの時落としたフライすらもキャッチ出来る気がする!(つまりはそれくらい無敵なパワー!)










逆転
ホームラン!




さんって意外と大胆なんだね、文貴驚いちゃったよ。 え、ええだだって水谷君が先に…!)




[2007/11/20]