この世界には誕生日という儀式のような行事というようなものがあることを知ったのは去年のことで確か教えてくれたのは将臣だった気がする。まだこの世界に来て間もなくて、初めての出来事に俺はただただ驚くことしか出来なかったような記憶がまだ新しく刻み付けられている。けれども、あちらの世界で兄上のために戦ったあの日々はもう遠い、数十年も昔のことのようにも感じた。(こちらの世界での源氏と平家の戦いは本当に遠い昔のことらしいが)「九郎さん、お誕生日おめでとうございます」そうは言っていた。その言葉にも慣れず、最初は呆然としてしまう。「あ、そっか。あっちでは誕生日ってなかったんだっけ?えーっとですね、」「生まれた日を指すものだろう?」「なんだ、知ってるんじゃないですか」それなら説明いらずですね!は笑った。それからけえきという甘ったるい菓子に蝋燭を刺して火を灯す。「九郎さん、ふーって消してください」生暖かい光が俺たちと包んでいて、橙色に照らされるが言った。意味もわからず俺は火を消した。この行為に如何いう意味があるのか判らないので聞いてみたら「え、そういえば如何いう意味なんだろう…」と考え込んでしまった。どうやら自身もよくわからないことらしい。「とりあえず歳の数だけ蝋燭を刺し込んで、吹いて!それでたぶんこの歳になったよーみたいな儀式みたいなもの!…だとおもいます」最後は自信がなさそうであった。




「九郎さん、お誕生日おめでとうございます」


そして今年も同じ十一月九日がやってきた。は去年と同じにけえきというものを用意されていて(といっても去年は白かったものが茶色いものに変わったが)、如何いう意味がある儀式なのかははっきり判らない儀式のための蝋燭を刺していた。ただ違うのは蝋燭が去年よりも一本多いこと。けえきの周りにはが作った料理の数々が並んでいる。


「去年も思ったことなんだが。凄い量だな、これは」
「あたりまえじゃないですか。九郎さんが生まれた日なんですよ、すごーく大切な日なんです!」
「あ、ああ」
「生まれてきてくれて有難う、って日なんですからね。わかってます?」
「…一応は理解しているつもりだ」
「一応って…まあいいや。これから毎年祝うんだし」


がどんなに大切な日と説いていても俺にはいまいち実感というものが沸かないのだからしょうがないだろう。もしも、あちらの世界にいるときも誕生日という祝いごとがあったら今とは感覚が違ったのだろうか。…そうだろう、それでも同じようにこっちの世界へ来ては、同じように祝われているに違いない。は拗ねながら、片方の手で火をつけるための道具でカチカチ音を鳴らしながら蝋燭に火をつけていく。見れば見るほど不思議だ。今まで自分がいた世界で出逢った別の世界の人間と、自分が存在するはずのなかった世界でこうして祝いごとをするなんて。寂しい気もするが、後悔なんてしていない。蝋燭に火をつけ終わったが電気を消した。また、去年と同じように暗闇の中で橙色に光るが浮かぶように見えてくる。


「夢だったんです、こんな風に好きな人と誕生日を祝うの」
「ばっ、あんまりはっきりそういうことを口に出すな!」


は笑って、早くと急かすように指をけえきへ向ける。俺は息を吸い、火をふーっと吹き消すと同時に腕を引き寄せられてそのまま床へ倒れこむ。「プレゼント、あげますね」俺が反論する間もなく口は塞がれて、誕生日なんだからしょうがないと受け入れることにした。







繰り返す




[2007/11/09][HappyBirthday!!]