ちゅっと音を立てて唇に触れると、廉は真っ赤な顔をさらに真っ赤にさせて、目も見開いて(チューの時くらいは目を瞑ろう、レンレン)、もうこれ以上ないくらいのカワイイ顔をアタシに見せていた。だけど、だけど、


「廉もさ、一応男でしょ?」
「う、ん(いち、おうじゃないけど)」
「だったらさ、いい加減キスくらい慣れよーよ」
「う、う…ん」


うん、とも、ううん、ともとれる相変わらずの返事の仕様にイライラする。はぁ、隆也はよくこのイライラを抑えられるな。…いや多分抑えてはいないだろう、あの隆也は。


「あ、あの、」
「…なに?」
「お、お、おおおこって…」
「ない。ちょっとイライラしたけど」
「う…お、おね、えさん。ご、ごめんなさ、」
「あと、それ」


それ?と首を傾げる廉。うーん、可愛いよ。君の仕草は可愛いよ。だけどね、アタシにとっては許せないことがあるんだ、だからいくら可愛い廉でもアタシは此処で負けてなんてられないよ。だってさ、それ一つでアタシと廉の距離がグーンと広がってるの、判らない?


「それ。お姉さんじゃなくて、ちゃんと名前で呼んでほしいの」
「で、も…おねえさん、は阿部くんの」
「隆也は関係ないでしょ」


アタシがはっきりそう言うと廉は、あ、とか、う、とか言わなくなってついでに目に涙も堪ってきて、…これじゃあアタシが苛めてるみたいじゃない。苛めてるわけじゃないよ、泣きたいのはこっちだよ。アタシは「隆也のバッテリー」だから廉と付き合っているわけじゃない、それは何度も本人に言ってる。なのに、廉は「阿部隆也の姉」だからアタシと付き合ってるの?その呼び方一つで、アタシだってそういう風に不安になったりもするんだよ。ハァ、と溜息を吐いて「泣くくらい嫌なら、いいよ」とだけ言って歩き出そうとすると、廉が袖を引っ張りアタシを引き止める。


「ち、がう…よ。嫌じゃない…!」
「…」
「嫌、じゃない…よ、、さん」


泣きそうな顔をしながらも恥ずかしそうに目を伏せてそんな風に言う廉が愛おしくて、もうアタシの泣きたい気分なんて如何でもよくなって、廉をギューッと抱き締めた。そのままチューもしちゃおうかななんて考えていたら、廉のほうからキスをくれて(といってもほっぺだけど)、アタシは思わず抱き締めてる腕を強めた。頬から唇が離れると先ほどと同じように頭を沸騰させるくらい真っ赤にさせている廉はもう可愛くて可愛くて、好き!ともう一度アタシのほうから唇をぶつける。


「(ま、さんは余計だけど…ギリギリ合格、かな)」


さて、廉の方からほっぺじゃなくて唇にキスが降って来る日までには、呼び捨てになってるかな?






溶け



の代






(今度お姉さんなんて呼んだら街中でチューしてやる)
[2007/11/01]