浜田先輩の第一印象は、怖い人、だ。日本人で金色の髪をしている人を見かけるとなんだか体が震え上がっちゃう。…だって、不良ってイメージがすぐに浮かんじゃうから。現にわたしが通っていた中学では、同じクラスの高橋さんが金髪に染めて先生に怒られて、最終的には学校にあまり来なくなっちゃって、たまに来たと思ったら私服で、先生と喧嘩してて、兎に角、見ていて怖かった。(卒業した今では「あの子結婚したんだって」「親に勘当されて家出中って聞いたよ」「麻薬に手を出して捕まったららしい」なんて根も葉もない噂が立っている、噂によるとそれは全て本当のことらしいけど)それから、留年しているってことも、わたしが先輩を怖がることに拍車をかけている。人を見た目やそういう文字だけの価値で判断しちゃいけないなんていうけど、そんなことは無理、だ。つい見たままを想像してしまう。きっと、喧嘩したんだ!それで学校来なくなって、出席日数が足りなくなったんだ!ううん、もしかしたら他にも何かしてるかも。…なんて、くだらない想像を走らせた。 でも浜田先輩は、わたしにそんなイメージを持たせた見た目に反して、わたしの予想していた中身とは百八十度違う人間だった。授業にはちゃんと出席してるし、野球が好きらしくて応援団とか作ってるし(応援、すごく必死にやってた)、明るいし、面倒見もいいし、思っていたよりも全く全然いい人だ。なんというか、馬鹿にしてたように変な想像をしていた自分が恥ずかしい。それでも、自分が持ってるイメージからは完全に抜け出せず、先輩と話す時はついうっかり、どもってしまうこともあるのである。 「ってさ、字キレイだよなぁ」 「え、そ、そう、ですか?」 「うん。日誌オレが書かなくて正解かも」 オレ字下手くそでさーとケラケラ笑う先輩にどくんどくんと心臓が跳ねる。怖い人じゃない、って判っていてもイメージは抜けきれず、相手が年上だとわかっていると妙に緊張してしまう。冗談みたいに、言い返せたらいいのになぁ。これだからわたしは、友達と話していても会話が止まってしまうんです。「お、やってんなぁ、あいつら」浜田先輩がカーテンの端を持って、窓際で外を見つめる。その顔は穏やかで、時折「あいつら、教室内じゃああんなおこちゃまなのになぁ」なんて呟いたりして可笑しそうに笑ってる。どくん、と大きく胸が鳴った。先輩がわたしの視線に気付いてこっちを向いたので慌てて目を逸らす。それから書き終えた日誌を持って、立ち上がった。 「先輩。わたし日誌、書き終わったんで先生に渡してきますね」 「お、じゃあオレも」 「先輩はいいですよ。わたし一人で大丈夫です」 出来るだけ普通を装って話していたはずなのに先輩は何故か不満そうな顔をする。またもやどくんと心臓が跳ねた。わ、わたし、何か気に障るようなこと言っちゃったかなぁ。「ねー、その先輩ってゆーのやめない?」 「同じクラスなのに変だろ」 「え、でも…先輩、は」 「ほらー、まぁた先輩ってゆーし。同じクラスなのに先輩扱いされたらオレ寂しいよ」 それから、浜田先輩はまあどうしても嫌って言うなら構わないけど!と苦笑いをしながら付け足した。どくどくどくどくどくどく。心臓の音が止まらない。これは緊張しているんだ。わたしの中から、先輩の怖いってイメージが抜けないから?…違う、と思う。確かにそういう緊張というのもあった。けど、今感じているそれは絶対違うものだと断言できる。何処が如何違うとか其処まで確信できた要素は何かとかなんで断言できるのかとか、聞かれればきっと上手く言葉にはまとめられないけど。そんな風にわたしの中を支配してしまう先輩の顔を見ているとなんだか逆らえなくて(怖い、とかじゃなくて)、汗だくになりながら喉の奥に詰まって出ない声を引っ張りだしながら「は、い」ぎこちなく答えた。「ついでに敬語も」「…うん」浜田せん…くんは嬉しそうに笑っていて、つられるようにわたしもわらった。怖いんじゃない。好きなんだ。 IMPRESSION HEARTS
「(うわわわどうしよう!!なんか可愛いこの小動物!)」 「それじゃあ、わたし日誌届けてきま…くるね」 「お、おう!…あ、いややっぱオレも行く!」 [2007/10/25] |