「危ねーから、ちゃんと掴まれよー」 「…?ちゃんと掴まってるよ」 悠ちゃんは肩に置かれている手とわたしの顔を交互に見てから、拗ねたように「だから、そっちじゃなくてこっち!」悠ちゃんの肩に置かれていたはずの両手を掴まれて、その手は強制的に悠ちゃんの腰に回された。う、わああ。わたしが講義する暇もなく、悠ちゃんは自転車にスピードをつけていく。手を離したら危ないし、何より悠ちゃんが怒る。もうしょうがないからと諦めて、腰周りに回されているゆるい腕を、振り落とされないように引き締めた。(ドキドキ、しないわけがない) 悠ちゃんも安上がりだなぁ。折角誕生日なんだからもっと贅沢なこと言ってもよかったのに、何がいいかって聞いたら「と二人乗りがしたい!」って言うんだもん、驚いちゃったよ。そりゃあ、わたしだって昔みたいに二人乗り出来たらなぁとはちょっとくらいは思っていたけど、わたしも悠ちゃんももう子供じゃないしそんなことは出来ないよって頭の中で決め付けてた。(それに、悠ちゃんには部活もあるし、疲れるし)だけど悠ちゃんの中ではそれは決定事項らしくて、「部活終わるの待ってろよ、ゲンミツに!」なんて言われちゃあもう逆らうにも逆らえない。悠ちゃんの自己中め! わたしを荷台に乗せて走る悠ちゃんは、やっぱり男の子なんだなぁ。わたし、自転車の荷台に人乗せて走れないし、昔は背だってわたしのほうが高かったのに成長期だかなんだか判らないけど今じゃあ悠ちゃんに負けてるし(でも男子の中では小さいほうらしい、けど)、わたしの目の前にある背中だってこんなに広い。わたしの知ってる幼馴染の悠ちゃんは、どんどん男の子の悠ちゃんに変わっていく。わたしの、知らない悠ちゃんになる。少しそれが寂しくて、思わず回している腕をさらに引き締める。(わたしの鼓動が、伝わらなければいい)本当は、小さい頃に戻ったみたいで嬉しかったよ。でもね、こんなことに気付くくらいならしないほうがよかったのかもしれない。そうやって大人になっていくということが身に染みる。 「ん?、如何した?」 「…ううん、なんでもないの」 「そっか!…あ、」 「坂、」と悠ちゃんが言ったのと同時に、ガクンと今までと角度が変わる。スピードが上がる。不安定な荷台は、ちゃんと座っているはずなのにグラグラ揺れているような気がして少し眩暈がする。「ー?」悠ちゃんが声をかけてくれなければ、きっと振り落とされていた、かも。久しぶりの二人乗りのこの感覚には、まだ慣れない。 「なにー?」 「見て見て!超スピード手離し運転!」 「あ、危ないよばか!」 「大丈夫だって、ゲンミツに!」 全く、何が大丈夫なのだろう。事故に遭ってからじゃあ遅いのに。わたしの心配を読み取ったのかのように、悠ちゃんはにししと笑った。笑い方とか馬鹿なことをしでかすところとか、そうやってわたしを無意識に喜ばせていることとか、そういうところは何一つ変わってない。わたしより背が大きくなっても、昔より背中が広くなっても、悠ちゃんはいつまで経っても何歳になっても悠ちゃんだ。嬉しくて、わたしは手にまとわりつく布を握り締めた。ああ、でもたぶん。わたしも悠ちゃんと一緒なら大丈夫な気がする。 そして
僕らは風になる 「悠ちゃん、誕生日おめでと」 「おー!」 [2007/10/16][HappyBirthday!!] |