神様、神様、神様。仏教の仏でもキリスト教のイエス様でもイスラム教のアッラーでもメシアでも地獄の閻魔大王様でも龍神でもいっそ天使でも悪魔でもなんでもいいから、神様。九郎を、どうか救ってください、助けてください。彼はとても純粋なんです。馬鹿みたいに素直で、真っ直ぐで、曲がったことは大嫌いで、ブラコンで、しょっちゅうからかわれて照れていて。手を繋ごうとすると拒否するけれどそれはただの照れ隠しで、抱きついたら最初は引き離そうとするけれど最終的にはおずおずと抱き締め返してくれる初々しさがあって。だけどキスが案外上手いし、恥ずかしいことを平気で口にする、そんな愛しい人を、私から奪わないで下さい。彼はただ、ただ、頼朝の力になりたかっただけなんです。私は頼朝なんて大嫌いだけど、九郎が敬愛しているからそんな九郎のために尽くしてきたまでなんです。九郎が頼朝を酷く慕っているから、頑張ってきたのに、なんでこんなことにならなくちゃいけないんですか?如何して九郎が連れて行かれなくちゃならないの?九郎が頼朝の世界を作るのに妨げになるなんて、そんなわけないのに!九郎は頼朝のためだけに尽くすんだよ、それが妨げになるわけない。頼朝は、九郎のこと判っていない。だから私はアイツが大嫌いなんだ。ああ、今牢に閉じ込められているのが九郎じゃなくて頼朝だったらよかったのに。ううん、きっと頼朝が牢なんかに閉じ込められたら九郎は命をかけてでも助けに行くよね。そもそも頼朝がそんな状況に陥ることは有り得ないのだ。ああ、だから、神様、神様、神様。九郎を助けて。牢から出して。私は、もっと、もっともっともっと九郎と一緒にいたいんです。あの不器用な笑顔に逢いたいのです。真っ直ぐな声が聞きたいのです。おずおずと抱き締めてくれる腕がいとおしいのです。









さん、聞いてください」
「九郎さんが…さっき、死刑になった、そうです」




眼を真っ赤に腫らした望美の言葉でも、私は信じない。だって、だって、私はあんなに神様にお願いしたんだもの、それで叶えてくれなきゃ神様は残酷だわ。そうよ、だってだって、九郎は私の元へ帰ってくるんだもの。私が神様に願ったんだもの。「九郎を私の元へ、還してください」叶えてくれなきゃ、神様は残酷よ。だって私は九郎を愛おしく思っているんだもの。きっと彼がいなくなったら死んでしまうわ。だから絶対信じないわ。九郎は生きてる。九郎は私の元へ帰ってくるの。きっとボロボロになってでも、それで私は泣いて、ばかって言うの。そしたら「すまなかった」ってバツの悪そうな顔をしているものだから、私は笑うのよ。馬鹿ね、馬鹿。私は待ってたのよ、貴方が帰ってくるのを。九郎、おかえり。抱き締めながら何度も何度も、言ってやるわ。そのために私は待つわ。絶対、絶対絶対絶対。




「嘘じゃ、ないんです」
「九郎さんは、死んでしまったんです」
「私だって、信じたくない…!」




いくら望美の声が泣き枯れていても私は信じないし信じられない。信じたいとは思わないから私は耳を塞ぐ。聞こえないように。こんな言葉を聴き続けていたら、私はいつかこんなくだらない知らせを信じてしまうわ。神様は私の九郎を救ってくれる、助けてくれる、そして私の元へ返してくれるんだもの。他の誰かがなんと言おうと私は信じない。だって私は、九郎の死ぬところなんて見てないもの。鼓動が止まる音を聞いていない。奪い去られる体温を感じていない。その体が燃やされるところだって見ていないんだ。だから私は信じない。私は神様に願い続ける。だって、だってだってだってだってだって、私が九郎の死を信じたら、唯一信じなかった私がそれを認めてしまったら、九郎は本当に、死んでしまう。






親愛なる


残酷な


神様へ




[2007/10/13]