「俺、が好きなんだけど」 屋上。青空。扉の開く音。告白。デジャビュ。この前と同じ情景、違うのは今が水曜日の放課後ということと私に今押し付けられている立場、それから告白現場の目撃者の行動。ドアに背を向けている形の私が音に気付いて振り向けば、田島くんがこっちに近づいてくるのが見えます。え、え、え、なんで?私まだ返事してないんですけど、告白時に第三者がいるとしにくいんですけど。(その第三者が好きな人だったら余計に)驚いて動けないでいる私の横まで来た田島くんは、「ヤだ、あげない」とだけ言って私の腕を掴んでドアの方へ戻ろうとします。ヤだって、あげないってえらく簡潔な!というかあげないもなにも私はまだ返事すらしてないのに、 「たたたじまくん!私まだ返事してな…!」 「じゃあ早く断ってこいよ!」 「こ、断ること前提というか決定!?」 「え、断んねーの?」 「断るけど!…あ、」 ごめんなさい、こんな私に告白してくれた名前も知らない人。本人前で断るか断らないかの会話で完全に断ると思い切り言ってしまって。(ああ、いやその断るつもりでは最初からあったのですが、ね!)(もうちょっとデリカシーというかプライバシーというか、そういうものを考えよう、田島くん)田島くんは、思ったことを行動に出しすぎ、なのですよ。ヤだ、とかあげない、とか本能のままに行動しないで下さい。そんな風に言われたら私はまた喉の奥に言葉を潰してしまいます。だけど、名前も判らないその人にちゃんと返事を、しなくてはならなく、なってしまいます。「ご、ごめんなさい。す、すきな人、が、いるんです」 田島くんの手に引っ張られながら、あ、そういえば私田島くんにも返事してないんだとかなんとかを思い出してしまいました。最近一緒に帰ったり、(一方的に)抱きつかれたり手を繋いでたりなんたりしてたものだから、もう返事をした気でいたけど。だけど、言うのが恥ずかしくてなかなか言えないのも現実。さっきもヤだとかあげないとかそんな台詞言われたばかりだから、嫌われてはいないだろうし、(ナルシストのような感じだけど)好かれているとは思う、ネガティブ思考な私でも。私が、ちゃんと返事をしなければ今好かれていたって、それが幻のように消えて違う人を好きだと思ってしまう日が来てしまうかもしれないから、早くしなくちゃならないのです、本当ならば。だけど、私は好きな人を目の前にするとどもってどもって、喋ることすらままならないのです。そんな状況で如何やって告白しろと。 「、好きなやつって誰?」 「へっ…!?」 屋上からの階段を何段か下りたところで、行き成り田島くんは立ち止まって私にそういいます。まさかこんな、すぐ直後にこんな恥ずかしいイベントがやってくるなんて思いもよりませんでしたよ。でも少し考えれば当たり前の質問。私は返事をちゃんとしていないし、好きだと言ってくれている人なら気になって、当然、といえば当然。でも、今此処で、それを、言えと?体中が熱くなっていくのが判ります。掴まれている腕の脈から、私の心臓の音の速さが伝わってしまうのではないでしょう、か。 「あ、あの早く部活い、かないと!阿部くんにまた、おおこられる、よ!」 「……」 「…た…たじまくん?」 「…いいたくねーんだったら、そう言えばいいじゃん。俺だって無理強いしねーし」 「あ、あの」 「でも俺、が誰が好きだっつっても諦めね」 「ちょ、ちょっと話聞いて!!」 掴まれていた腕を、思わず逆に掴んで叫ぶように。普段、田島くんの前だとちゃんと話せない私が、そんな風に言葉を発するのはきっと初めてで田島くんも吃驚してます。きっと、もう引き返せない。誤魔化そうと思っていたのに、まさか自ら墓穴を掘ってしまうなんて。でも、もう止まらない。 「た、たじま、くんは、あの時も私の話を聞かずに、勝手に諦めないとかなんとか言ってて、返事をするタイミングを逃しちゃったんだよ。答えなんて、最初から決まっていたのに。…す、すきな人じゃ、なかったら、一緒になんて帰らない…よ」 「…」 「ご、誤魔化して流そうとしたことはごめんなさい。だ、けど…ちゃんと、私の話を、き、聞かなかった田島くんにも、責任は、あるん…だよ」 うう、言ってしまった、言ってしまいました。私は臆病で如何しようもなくて、今まで先延ばしにしていたことを、ベラベラと栓が抜けたお風呂みたいにダラダラと流して。改めて返事をするというのは、中々難しい。恥ずかしくて途中から田島くんの眼なんて見れなかったけれど、何時もは騒がしい田島くんが何も言わないから、不思議に思って焦点を合わせれば行き成りニッて笑って、そして、抱きつかれました。 「た、たたたた」 「じゃあさ、じゃあさ!俺もう我慢しなくていーんだよな?チューもセ」 「大声でそんなこと言わないで!!」 何度かやられている行為とはいえ、やはり慣れません。そんな中で田島くんがまたえろいことを言うものだから急いで腕を掴んでいた手を離して、田島くんの口をそれで抑えます。田島くんはそれでもまだニコニコしていて、先ほど掴んでいた腕で私の手を口元から外します。そうしてから近づいてきたので、私も目をゆっくり、閉じました。 終曲: 幻想ポロネーズ
(念願のチューもやったし、次はセッ…むぐっ)(すすすすこしだまりましょうか、たたたじまくん!)[2007/09/17][title by Chopin] |