「な、な!一緒にかえろーぜ!」






田島くんに告白らしきものを受けてからというもの、毎日のようにラブコールが飛ぶようになりました。ええ、今まで言わなかったような恥ずかしい台詞をもうたくさん言ってしまうようになったのです。「いいいままでそんなこと一言も言わなかった、の、に!!」と言い返せば「言ってもよかったけど、告る前じゃ意味ねぇじゃん」…いや、意味はあるんです、意味は。きっとそれが冗談というかその場のノリとかそういうものでも私は胸の奥のタンスにその言葉をしまっておいて、家に帰ってから何度も引き出して喜ぶのですよ。…なんて、変態臭い。でも嬉しいのは、事実なんですよ。褒められて気分が悪くなる人は世の中には数が少ない。それから、褒めた相手が好きな人というのは、大きい。(でも、たまに。ぶっとんだようなえろい台詞まで言われるようになってしまって)(それは、恥ずかしいの度が強すぎて寧ろ喜ぶことすら出来ません)


最初こそはからかってきたクラスメイトたちもこれはもう日常なので今更何もつっこんではきません。寧ろ私たちのことを見守っているようなニヤニヤしている眼で見ているのです。(9組は変なところで団結力が高まる)(いやいやいや、笑ってないで止めてくださいよ!皆意地悪なんだから、ニヤニヤして!)そして私は、相変わらずのどんくささで返事をするタイミングを逃しているのです。返事なんて、決まっているのに。うう、私の馬鹿。一つ悩みが減ったという代わりに、一つ悩みが増えてプラスマイナスゼロ。ああ、なんてどんくさい私。




「…ぶ、部活は?」
「今日はミーティングだけ!」




私は部活には入ってないので、言ってしまえば放課後は暇、そして友達は別方向なので帰り道は一人ぼっちでとぼとぼと家に帰ることになっているのです。田島君とは喋ってて楽しいし充分暇を潰せる(暇を潰すという言い当てはよくないけれど)、私は二つ返事でイエスと答えました。答えた瞬間に周りにいた男子が「よかったなー、田島」とかなんとか言ってきたものだから、無性に恥ずかしくなってきたので思わずやっぱり一人で帰ると言いそうになってしまいまいました。(うう、危ない危ない)「んじゃ、帰ろーぜ」当たり前のように手を繋いで来るものだから、周りの視線が増します。廊下で逢った友達は、私の友達…のはずなのになんだかとっても意地悪です。「田島!ここらでいっちょ、を喰っちゃえ!」「くくくわれません!」「ごちそーは我慢したほうが美味いんだぜ!」「へ、へんなこと言わないで!!」田島君はそんなからかいの声を持ち前の天然さとえろ知識で見事にかわしていました。…。


学校の外へ出ると雲ひとつない快晴に思わず溜息が出ますが、「一緒にいるのがつまらない」と田島くんに思われたら嫌なので自分の手で口を押さえます。(前に、そう勘違いされて大変だったことがある)一群二群三郡と飛んできたからかいの言葉。ひとつ流したと思ったらまたひとつ、懲りずにやってきて好い加減疲れるってものですよ。でも、私の隣にはなにやら上機嫌で歩いている田島くんがいます。それだけで疲れがふっとんでいくのです。




「…何か、いいことでもあったの?」
と一緒に帰れっから」
「…」




そうです、先ほども言ったとおり田島くんはこういう言葉を臆することなく言うのです。恥ずかしさと嬉しさが入り混じってなんて返せばいいのか私は判らなくなってしまうのです。田島くんとの会話は楽しいです。だけど彼の言葉は爆弾のように危険なのです。私を攻撃するのには充分な威力で、いつこんな言葉が降って来るのか予想がつかないしから準備できなくて。(そもそも、準備したところで意味はないのだけれど)どくんどくん、心臓の音が早い。「、わ、たしも」歯切れが悪くて、声が小さくて、聞こえていないかもしれません。でも田島くんはニッと口元をあげて笑っているのです。ああ、やっぱり、そういうところが好きなんだなぁ、なんて思っていたりも、して。




「あ、あ、あの」
「んーなに?」
「わ、わたし。部活入ってなくて、それから、友達が帰り別方面で」
「うん?」
「だから、」




緊張して口がどもります。でも、言わなきゃ。また、ニッて口元を上げてくれることを期待して。思ってること、その場で言わないときっと損します、絶対損します。(だって現に、あの時告白出来なかったことでどんどん返事が先延ばしにされて、私も田島くんも損し続けている)私の勇気は、ほんとうにちっぽけです。だけど聞いて、私のちっぽけな勇気のかたまり。ね、あのね、田島くん。




「部活終わるまで、待ってるから。い、い、一緒に帰っても、いい…?」
「…当たり前だろ!」






演奏曲:




軍隊ポロネーズ
(お前らさ、そういうことは人がいない場所でやれよ)(いいいずみくんいつから…!)(割と初めの方から)




[2007/09/10][title by Chopin]