「「どっちが光君でしょうかゲーム♪」」 「さ、」 「どっちが光か、当ててごらん?」 目の前のシンメトリーは、私の顔を覗き込んで、彼らにとってはこの世で最も簡単で私にとってこの世で最も難しい問題の答えを求める。こんな問題よりも、苦手な数学の方がどれだけ簡単なんだろうと思うと、溜息すら出てこない。私は、人の顔と名前を一致させることがものすごく不得意だ。普通の学院の生徒でも見分けることが難問なこの双子を、どうやって私が見分けることが出来よう。ハルヒ君が言うには、性格とかも違うみたいだから判るって話だけど…私はやっぱり人の顔を覚えるのが苦手で、どっちの特徴が如何だとか、全然思い出せない。それから、私は間違えてしまうことが怖い。いくら二人が間違えられることがしょっちゅうとはいえ、傷つかないわけないのだ。(実際に傷ついたから二人の世界に閉じこもったんじゃないの?)(以上、私の勝手な推測)私はそれだけは回避したいのだ。 悩みに悩んだけどやっぱり判らなくて仕方なく私が白旗を揚げると、二人とも同時に「「はぁーあ。駄目だね、は」」と言う。…私だって、当てられるものなら当てられるようになりたいよ。 「……ハルヒ君は、ちゃんと当ててくれるんだよね」 「当たり前じゃん」 「もそれくらい出来るようにならなくちゃねぇ〜」 「…私はハルヒ君じゃないもん」 不貞腐れてそう呟いたのを見て、二人はニヤッと不適な笑みを溢す。私は知っている。こういう顔をする光と馨に関わるとロクな事がない。嫌な予感がする。そしてまた声を合わせて二人は言う。 「「何にしろ、当てられなかったには罰ゲームでぇーっす♪」」 あぁ予想通りの答えが返ってきた。初めからなんの疑問もなく用意されていたその答えに、私はもう遠い目をするしかない。(てゆーか、二人はもう、罰ゲームとやらをするために私に問題を出しているようなものだ)(この前は顔にラクガキして校内を一周、その前は某庶民ファーストフードにて「スマイル下さい」、さらに遡って初めての罰ゲームはファーストチューを奪われた)大体、二人にはお気に入りの玩具のハルヒ君がいるじゃないか。ハルヒ君なら絶対二人を間違えたりしないし、その事で傷付けたりもしない。それに、嫉妬しちゃうくらいオンナの私よりずっと可愛いからのだから、私なんかに構ってないでハルヒ君の方に行けばいいのに。それならそれで、他のお嬢様は喜ぶし。 「あー、今ハルヒのこと考えてたでしょー?」 「駄目だよ。今は僕らと遊んでるんだから、僕ら以外の人のこと考えちゃ駄目」 私と遊んでるんじゃなくて、私で遊んでるくせに―――そう呟いたはずの私の声は虚しいくらいに飲み込まれた。双子の片割れが私の唇を奪ったせいだ。楽しそうに笑っていて、悔しいけれど抵抗出来ない。気付けばもう片割れが首筋に顔を寄せていた。チクリと首筋が痛んで、抵抗するどころか力が抜ける。私の力が抜けたことを利用して、二人は軽く私の体を押し、そして倒す。その瞬間、かぁぁぁって身体が沸騰するように熱く、赤くなったことがすぐに判った。ファーストチュー以来、一応そういう関係である私たちは何度もそういう行為だってしているわけなのだけれど、この綺麗な顔が近くにあることには、私が慣れることはない。 「どーせ、のことだから」 「ハルヒみたいな子を相手すればいいのにとか考えてたんでしょ?」 「当たり前でしょ。…ハルヒ君は、私みたいに間違えたりしないし、百発百中じゃない」 図星なのを私は開き直って二人に言った。そして二人は、人を見下すような(実際見下ろされているのだけど)鋭い顔つきで私に問う。 「ハルヒはハルヒではでしょ。何変なこと気にしてんの?」 「そんなに僕らが嫌なわけ?」 「「僕らはこーんなに、のこと好きなのにね?」」 そんなの、知ってる。そりゃあ、こんなカッコイイ人に平凡な私は釣り合わないけど、自惚れているようだけど私を好いてくれてることなんて知ってる。二人は子供で、嫌いな子は徹底的に拒絶するけれど、好きな子は苛めるという感情を表にさらけ出しているから。だからこそ私は悔しいのだ、見分けられないことが。私だって誰にも負けないくらい光と馨が好きだと感じているのに、それが認められていないようで。ハルヒ君は容易く見分けているのに、私はハルヒ君にはなれない。 「、知ってる?」 「それ、嫉妬って言うんだよ」 「へ?」 「「ヤキモチ妬いてる顔してる」」 それから二人は満足そうにクスクス笑って、私にふわりと頬にキスを落とす。ヤキモチ。ヤキモチ、ヤキモチ。それはパズルゲームの最後のキーワード。嬉しそうに満足そうに笑う二人を見て。光と馨は、まるで私の愛を認めるとでも言うように無邪気に子供特有の笑いを含んで 「「ハルヒに嫉妬しちゃうくらい、は僕らが好き!」」 「「とゆーことで、罰ゲームは僕らに処女を奪われること決定!」」 それから、さらに強く抱き締めた二人の身体からは私と同じくらいの心臓のドキドキが聞こえた。抱き締められながらすぐ近くにいる二人を眺めると、なんとなく私がきっと一生二人を見分けられなくても二人は多分変わらずにゲームを仕掛けてくるような気がした。終わらないパズルゲームを。でも、おそらく、それでいいのだろう。 その直後、さっきの続きをしようとまたもや私がキスされたのは言うまでもない。 パズルゲームは 終わらない [2007/08/19] |