「いっちゃん、誕生日おめでとー」
「…おい」




日曜日の朝。寝坊できる朝。でも私は結構早起きで。起きてすぐスクランブルエッグと焼かれたパンを食べて着替えて歯磨きして髪の毛を整えて、それから我が親愛なる幼馴染に電話を入れる。電話に出たのはいっちゃんのお父さん。朝からテンションが高くてこっちまでもが楽しくなっちゃう。「おじさん、わかってると思いますけど」「ああ、判っているさ!ちゃんの願い事なら何でも聞くよ!」なんて頼りになるおじさんなんだろう。それからいっちゃんを呼んでもらって、電話越しに「いっちゃん、今すぐ私んちに来てね。絶対だよ、着替えて直ぐだよ。朝ごはん食べながらでもいいからね?あ、でも髪の毛はちゃんと整えてね。絶対絶対絶対来てね。来てくれなきゃ絶交なんだから」一方的に用件だけ言って電話を切る。今頃いっちゃん、眠たい頭を回転させて動いてるんだろうなぁなんて思いつつ準備を進める。しばらく経って、ピンポーンとチャイムが鳴った。いっちゃんだ!いっちゃんいっちゃん!今すぐ扉を開けたいけどそれじゃあ駄目。だって扉の取っ手で私の手が塞がれちゃう。インターホン越しに「空いてるから入ってきてー」なんて言って玄関で扉が開くのを待っている。ガチャリと扉が開いたと同時に「おめでとう」の言葉と手に持っている花をいっちゃんの頭に振りつけた。




「今年も、私が一番だよね?」
「…ああ(てゆーかこれは一種の虐めか?)」
「やったー!さっすがいっちゃんパパ、頼りになるー」




おじさんは毎年私のために、私が一番最初にいっちゃんにおめでとうって言えるようにセッティングしてくれる。いつだったか小さい時に、一番初めにおめでとうと言えなかったことで大泣きしたとかなんとかで、それ以来ずっと、だ。おじさんは乙女心を判ってらっしゃる。そしてそれが判らないいっちゃんは、まだまだ子供だね。


いっちゃんはちょっぴりウザそうに頭の上に乗っている花を握りつぶすように強く持ち(そんなことしたら花が可哀相でしょ!)、それから頭の上に花の根っこにまだまだ沢山ついていた土がくっついたのを気にして払っていた。私のプレゼントをそんな無碍に扱うとは!やっぱりいっちゃんには乙女心はわかんないんだね、やっぱり子供だね。




「これは誕生花かなんか?」
「わかんない。道端で拾ってきたから」
「はぁ?」
「拾っていっちゃんに私をプレゼントして〜って訴えてたんだもん」




プレゼントを買いに行った昨日。なかなかいいのが浮かばなくて悩みながら歩いていたら、ふと光るそれを見つけた。私をいっちゃんにプレゼントして〜って声が聞こえて…っていうのは冗談だけど。でも枯れたら嫌だなぁって思って、道端の土もそのまま掌の乗る分だけ持ってきて庭に花と土ごと埋める。そして今日の朝、再び収穫したのだからそりゃあ、いっちゃんが土まみれになるには違いなかった。そして、私がこの花をプレゼントとした決定打となったのは、




「きれいでしょ、いっちゃん色」




私の大好きなオレンジ色。見るだけで幸せになれる色。いっちゃんはまだ土が少しついている頭をかきながら「しょうがねぇな」と呟いた。何がしょうがないのか判らないけど、いっちゃんの不機嫌な顔が少し機嫌の良さそうな顔に戻ったからそれでよし!さ、今日の夜はいっちゃんの家でいっちゃんの誕生日パーティー。勿論私は参加不可欠。準備をするためにいっちゃんの家に行かなくちゃね。あ、その前に。




「私も土まみれだし、一緒にお風呂はいろー」
「ばっ!」




ほら、いっちゃんをからかうのってこんなに楽しい。






(ハローハローサニー




[2007/07/18][HappyBirthday!!]