毒林檎と







「三蔵はアタシを愛してはくれないのね」




アタシのその言葉を聴いても、三蔵は新聞から目を離さず、そして口からは煙草を離すことなく、まるでテレビのCMでも聞いているかのように聞き流して優雅にソファーに座っているのだ。ああ、イラつく。まるでアタシのことなんて如何でもいいみたいじゃないの。アタシの存在なんて認識してないみたい。悟空や悟浄の言葉だったら、例えそれが憎まれ口でもちゃんと返事はするくせに。相手がアタシとなると、まるで本当にアタシのことが如何でもいいみたいに無視をする。アタシのことなんて愛してくれていない。




「ねえ、如何なの」
「質問じゃねぇだろ、それは」
「そうね。どちらかというと確認に近いわ」




アタシはそう言いながら、後ろから三蔵の首に手を回し抱き締める。ああ、こんなにも心地よくて安心できて心臓が熱くなって仕方がないのに。それでも三蔵はアタシがこうして抱き締めることに何も感じてはくれないのね。アタシの心臓がどれほど速く動いていたとしても、三蔵の心臓は何時だって何時もどおりに平常に淡々と流すように動いていて、アタシの気持ちなんて汲み取ってくれなくて。ズルイ人だ。でも、アタシは三蔵のそう言うところですら好きになったとも言えて、皮肉だ。
三蔵がアタシを愛してくれないなんて、当たり前のことだった。だってアタシが勝手に惚れて、勝手に着いて来て、勝手に危険な目にあって、周りに迷惑をかけて、それでもアタシは三蔵にしか興味が沸かなくて。自分でもあまり好かれる性格ではないことは知っている。我侭で自分勝手で、こんな自分は大嫌いだ。だけど、それは愛が欲しいゆえなのだ。生まれつきの性格なのだから、改良の仕様もない。




「無言は肯定ととるわよ、三蔵」
「……ああ」
「聞いてるの?」
「ああ」
「新聞ばっかり見てないで、アタシのことも見て!」




思わず三蔵が持っている新聞を奪って、投げ捨ててしまった。アタシは自分がヒステリックだと自覚している。現に以前に三蔵にも言われた。ヒステリックババア。今でもそれはアタシの胸の奥を締め付けているけれど、先ほど言ったとおりアタシという人間のの根本の性格がこうなのだから仕方がないのである。短気な三蔵はそんなアタシの態度に驚いて、それから怒っている。睨まないで、アタシはそんな顔好きじゃない。綺麗な三蔵の顔が歪んでしまう。アタシはね、貴方のそんな顔を見るために新聞を放り投げたんじゃないの。ただ、愛されたいと願っただけなのよ。貴方は一向にその願いを叶えてくれそうにないじゃない。アタシの願いに比べたら、新聞なんて安いものよ。




「テメェ、殺すぞ」
「アタシのこと、愛してくれるんなら、拾ってきてあげるわ」




三蔵は怒ると直ぐに銃を構えるが、それは本気じゃないってことはアタシはよく知っている。いや、本気なのだろうけど、本気なわけがない。三蔵は殺さない。だって、アタシは仲間という言葉を盾にしているんだもの。その言葉があるお陰でアタシは一度も三蔵に銃弾を撃たれたことはない。銃口を何度向けられていても。変だな、悟空や悟浄はしょっちゅう撃たれてるのに。それは愛があるからか。仲間という信頼の愛。でもアタシには何の愛も向けてくれない。仲間という言葉には「生かす」という意味だけが込められていて、信頼も愛もへったくれもない。だからその言葉は、それだけでも凶器になる。だけど、アタシはどうせなら三蔵の手で死にたいな。間違いでも何でもいいから、アタシのことを怒って、それから撃ってくれるといい。アタシは避けられるほど素早くはないから、きっと当たってしまうけど。でも、それはアタシを仲間という愛情で包んでくれた結果なのでしょう?例え、三蔵がそう思っていなくてもアタシは勝手にそう考える。アタシのこの考えは絶対に三蔵になんか伝えない。伝えたところで殺されたって、何の意味も持たないもの。


三蔵は「チッ」と舌打ちをして、銃を終う。ああ、結局今日も撃ってくれないのね。そうして立ち上がって、首に巻かれているアタシの腕を振り払って、新聞を拾った。意地でも愛したくないとでも言うの。それとも、愛はそんな簡単に作れないとでも。




「…愛してよ。アタシはこんなに、三蔵のこと愛してるのに。」




アタシがそう言っても、やっぱり三蔵はアタシの言うことなんか気にしないでまた新聞を読み始める。結局は愛してはくれないんだ。なんでもいいからアタシは、三蔵に愛されたかったのに。アタシが持っている狂気的な愛情はいらないのかな、邪魔なのかな。涙すら出てこないアタシは、もう愛に餓えるしかないただの人形みたいなもので。だから、本来なら死んでしまったほうがマシなのに。貴方に殺されたいと願うことすら叶わない。アタシが欲しがるものはいつだって、アタシの目の前を素通りしていく。










永遠の愛をください




[2007/04/30]