「おはよう、」 眼が覚めると同時に感じた温もりと間近にあった馨くんの綺麗な顔に驚いたわたしは、つい、思わず、ズサッと後ずさってそのまま壁にゴンっと頭をぶつけてしまった。ぶつけた影響でちょっとクラクラするし痛いけど、それよりも恥ずかしさが上回っていてわたしは顔を隠すことくらいしか出来なかった。寝ぼけた頭を覚醒させるのにはあれだけで本当に充分だった。男慣れしていないわたしにとってはあれだけでも大衝撃だ。そうしてやっと、昨日の出来事を思い出す。頭が沸騰して穴があったら入りたいと思うくらい恥ずかしい。いや、恥ずかしいなんてもんじゃない。頭の中身を駆け巡るのは、昨日の、わたしと馨くんとの、は、は、はつ、たいけん。 「、何やってんの?」 「あ、う…その、恥ずかしくて」 「昨日はもっと恥ずかしいことしたのに」 「わ、判ってる…よ」 それを思い出していて恥ずかしかったのに、わざわざ声に出すことはないと思う。馨くんはわざとだ。馨くんは恥ずかしくないのかな、あんなことや、そんなことをしたというのに。男の子というものはそういうものなのだろうか、だったら理不尽だ、不公平だ。 「そんな顔しないでよ。僕にだって羞恥心くらいはあるし」 「…そうには見えないよ」 「見えないだけだよ。でも、それよりすっごく幸せだから、さ」 ――幸せ?うん、わたしも幸せ。だけど馨くんの幸せは、羞恥心よりもずっとずっと勝ってると言う。だからそんな平然としていられるんだ。馨くんは眼を細めて、わたしの髪を、頭を、さっきぶつけたところを探るように撫でる。「大丈夫?痛くない?」うん、痛くないよ。この手が愛しい。愛しいから、幸せ。それからわたしの後頭部に廻っていた手をそのまま背中に回して一気に抱き寄せられて、ほっぺにチューされた。 「…ねぇ、」 「……ん?」 「キス、してもいい?」 「…聞かないでよ」 馨くんはニコリと笑って、そのままそっと触れるだけのキスをした。唇を離したら、手を握り合って共に笑いあおう。幸せだって。 |
[2007/04/20] |