「何か考え事かい?姫君の頭の中を占めている奴が羨ましいね」




道行く人(正確には女)を魅了するような笑顔でさらに上目遣いで、私の顔を覗きこんできた。うん、やめようね。心臓に悪いから。ヒノエくんと歩いてる時に考え事をしていた私も悪いけどさ、そういうことすると私はクラクラ〜ってキちゃって倒れそうになるんですよ。ヒノエくんの笑顔は心臓に悪いから。




「う、羨ましいとか言われても……私、ヒノエくんのこと考えてたのに」
「それは光栄だね」
「…調子いいんだから」




でもヒノエくんのそういうところ好きかもしれない。あーあ、だからこそ。今日という日を祝いたいのに、如何してこうアイディアが浮かばないのだろう。だって、料理だなんてたまに作ってあげてるし、編み物なんて季節でもない。如何せなら、ヒノエくんは私のもの!って堂々と証明出来るものをあげたいし(ネックレスや指輪とか考えたけど、それは余計に女をひきつける道具となっちゃうんだな、これが)、ああ、浮かぶわけがない。私はこういうイメージというものが苦手なんだ。こういう時、何をあげたらいい、如何してあげればいいと考えれば考えるほど判らなくて、つい深く深くと考え込んでしまう。そうすると、ほら、また、




、オレのことを考えてくれるのは嬉しいけど。今はお前の頭の中のオレじゃなくて、目の前にいるオレを相手してくれないかな」




だから、上目遣いはやめてってば。そういうことするから、ああ、ほら、また、女の子がヒノエくんのほうを振り返っちゃったじゃない!「ちょっとあの人カッコよくない!?」「隣にいる女誰?彼女?やだ、釣り合わない」知ってるから言わないでよ、頭の悪そうな女子高生!それでも、ヒノエくんが好きって言ってくれたのは私なんだから文句言わないでよ!…って、たまたま通りかかった女子高生が、そんな告白うんぬんな話知ってるわけないのよね、うん。あの頭の悪そうな女子高生より頭悪いかも、私。




「そういえば神子姫様から聞いたんだけど、今日はオレの誕生日というものらしいね」
「…うん」
はオレに何をくれるんだい?」













「だから、それに悩んでたんだってば!」




ああ、もう。やっぱり私、あの頭の悪そうな女子高生より頭が悪いんだ。こんな風に逆ギレしちゃって、格好悪いじゃない。はぁぁと溜息を吐いてから、もう一度恐る恐るヒノエくんを見たら、不適に笑っていた。くそう、ときめいてしまった。




「オレは、から、熱い口付けが欲しいかな」
「…はっ!?」
「今此処で、ね」




何言ってるんですかこの美男子は。綺麗な笑顔でウィンクなんてしちゃって!く、く、く、口付けななななんて出来るわけないでしょう!しかも公衆面前、思い切りヒノエくんを注目しているこの場で!だけどヒノエくんはそんな周りの様子なんて気にもしないで、「さ、早く。姫君」なんて急かす。ううう…た、確かにこれは、ヒノエくんは私のもの!って決定的な証拠にはなるけど。それでもこんな大勢の前でキスなんて出来るわけないでしょう。何考えてるんだ、この男は。焦って思わず真っ赤になったまま固まって、ごちゃごちゃになった頭の中を整理していたら、ヒノエくんはクックと声を殺しながら笑っていた。「い、い、いったいなにが、お、おおかしいの」とどもりながら言うと、ヒノエくんはその赤い瞳でこっちを見つめて言うのだ。




「嘘だよ」
「…は?」
「エイプリルフール。昨日望美に教えてもらった」
「……はぁぁぁ!!?」




そんなの、有りか?私は悩んで焦って、本気で如何しようかと思ったのに!この目の前にいる愛しい男は不適に微笑んで、私は騙されたことに腹が立っているのに憎めない。ズルイ人。「」名前を呼ばれて顔をあげるたらヒノエが、私の唇にその形の整った唇を押し付けてきた。だから、公共の場だって。でも反論するような余裕は、私にはない。唇を離された後、真っ赤にさせて睨みつけることくらいしか出来ない。そんな私を見て、今度は満足そうに笑うヒノエくんが、憎めない。




「口付けが欲しかったのは、本当だぜ?」
「…ちくしょう」








笑うことが








君の罪です

(悔しいけれど、ハッピーバースデー。ヒノエくん)




[2007/04/09][HappyBirthday!!]