ボクがその場所に近づくと、その気配を感じたのか天真先輩はバッとこっちを向いて、落胆したような顔で「なんだ、詩紋か」と言った。…なんだって、酷くないですか?ボクだって先輩と天真先輩のこと心配してるのに。
本当なら先輩が心配だったから傍にいてあげたかったのだけれど、そっちにはあかねちゃんが行ったし、きっとボクがいても邪魔だと思った。だって、こういうのって女の子同士のほうが話し易いだろうし、あかねちゃんもそれを知ってるからボクを追い出したのだと思う。




「あんまり、喧嘩しないで下さいね」
「んなこと言ったって、あいつが…俺の気持ちも知らないで!」
「…先輩だっておんなじこと言ってますよ、きっと」




ボクがそう言うと、天真先輩はぐっと言いたいことを堪えてしまった。二人は似た者同士だから、きっとおんなじことを言っている。そのお陰であかねちゃんはすっかり「二人は兄妹、または親友のような仲」と勘違いしているのだけど。
喧嘩と言うものは何時だってどんな時だってお互い様なんだとボクは思ってる。例えどんな理由があっても、売った方も買ったほうも悪い。お互いが仲直りしたいと思ってるなら、ちゃんと心の底から謝らなくちゃならない。そうしてからやっとお互いを理解出来るんだ。天真先輩もそれは判っているから、気まずそうに眼を逸らす。




「天真先輩」
「……なんだよ」
「ボク、先輩は天真先輩と仲直りがしたいと思ってると思います」
「……」
「いつも、天真先輩と喧嘩すると怖いんです。荒れてるというか、オーラが出てるというか…人や物に当たるんです」
「……お前にも?」
「はい」




ボクがそう答えると天真先輩は「へぇ」と興味なさそうにそっぽを向きながら呟いた。だけどそっぽを向く直前にボクは見た、少しだけ安心したような顔をしていたこと。さっきまで不機嫌だったのに何時の間にか上機嫌になっていて、「そーか、そーか」と言いながらボクの頭をワシャワシャと撫でる。もう、そういうことならボクじゃなくて先輩にやってくださいよ。でもこの調子なら、ちゃんと仲直りは出来そうだ。あと一押し。そう思ってボクは、持っていた風呂敷包を天真先輩に差し出す。




「ボクこれから用事があるんで、これを先輩に届けてください」
「はぁ!?…あかねは?」
「あかねちゃんと、用事があるんです」
「なんだよ、これ」
先輩の好きなお萩です。さっき女房さんに教えてもらって、作ってみたんですよ」




本当は用事なんてないけど。さっさと風呂敷を渡して、ボクはもと来た道を引き返す。仲直りなんて切欠さえあればいいんだから、ボクとあかねちゃんでそれを作ってあげればいい。それだけ。早く仲直りするといいなぁ。






エキストラの









事情





[2007/04/02][HappyBirthday!!]