天真くんとちゃんはなんとなく兄妹みたいだと思う。言い合いして喧嘩したと思ったら、何時の間にか仲直りしてお互い肩を組んでいたりするのだ。(その時、二人の顔に傷が付いてることがちょっと気になるけど)(だって、天真くんは兎も角、ちゃんは女の子なのに)(あれ?これじゃあ兄妹と言うより男友達?)気が合うんだね、きっと。だから私はずっと、ずーっと、二人は親友同士だと思ってた。








「あれ、先輩、また天真先輩と喧嘩したんですか?」
「……そうよ、悪い?」




天真くんと喧嘩した時のちゃんはとてつもなく機嫌が悪くて怖いオーラが出ているので、すぐに判る。それに普段なら「あーん、可愛い詩紋!!」(または永泉さん)って、逢うたびに抱きついたり撫で撫でしたりほっぺを頬擦りするのに、喧嘩した時は八つ当たりもしてしまうのだ。(結局ちゃんはそのことで自己嫌悪に陥ることも多いんだけど)
私は詩紋くんに「先に部屋に戻ってて」と言って、縁側に座るちゃんの隣に座った。ちゃんは案の定、自己嫌悪に陥ってて体育座りをして顔を腕の中に隠した。




「今日は如何したの?」
「……、抱き付くなって」
「…?」
「女なんだから男相手にそんなことすんなだってさ。意味わかんない」




ちょっとだけ、顔を上げて不貞腐れたように言った。天真くんって、意外と純粋で思ったことそのまま言っちゃうタイプだけど、口が悪いから誤解されやすいんだよね。今回もきっとその類だと思う。
だけど、私にはなんで天真くんがちゃんに対してそんなことを言うのか、そしてなんでちゃんがそれで怒っているのか全然判らなかった。こういう時、せめて詩紋くんがいればきっとちゃんの言ってることを理解して私に通訳してくれるのに、先ほど追い出してしまった。(だって、女の子同士のほうがちゃんも話し易いと思ったんだもん)ちゃんは誰に言うわけでもなくて、でも誰かに聞いて欲しいように、呟いた。




「女だなんて、思ってないくせに」
「そんなことないよ!」
「思ってたら思い切り殴り合いなんてしないよ、普通」
「それは、…そうだけど」




だけど、天真くんがちゃんを女扱いしてないわけじゃないってことくらい私だって知ってる。怨霊に襲われた時だって、まず最初にちゃんの心配してるし、すごくさり気なく護ってるし。逆に言えば其処までしてるのに、なんで殴り合いの喧嘩をするのか謎なくらいだよ。私は二人のことを考えるほど謎が深まるばかりだよ。ちゃんだって、今まで天真くんが女扱いしないとか、そんなこと気にした素振り見せた覚えはないのに。










「…女扱いとかしてないくせに、期待させるようなこと言うなっつーの、」
「え?」




期待って、それってもしかして。私が驚いてちゃんの方を見ると、ちゃんはまた腕の中に顔を隠していて、でも隠し切れなかった耳は真っ赤に染まっていて。…うん、たぶん、私の考えてることは間違ってない。
私は今までとんでもない勘違いをしていたのだ。確かに二人はしょっちゅう喧嘩をして、殴り合いして、それで仲直りするような男らしい親友みたいな仲良しだけど、そんなのはきっと私からみた勝手な浅はかな考えで、表面から見えるようなものなんて当てにはならないんだ。だって、二人はお互いを自分たちの知らないところで支えあっていて、想いあっていて、傷つけあっている。それはたぶん、そういう感情があるからだ。そんな風にお互いを想っているのに、喧嘩しちゃ駄目だよとも思いつつも、それはそれで二人の愛情表現なのだ。止めることなんて誰にも出来ない。だけどそれで二人が後悔して、仲直りしたいと思っているんなら、私たちは手助けをしてあげるのだ。それが二人の間での私たちの役割なのかもしれないのだから。




ちゃん。私は、期待しちゃってもいいと思うよ」
「あかねまでそんなこと言うし、」
「だって、それって天真くんがヤキモチ妬いたってことでしょ?ちゃんと女の子って意識してるから、そういう気持ちになっちゃったんじゃないの?」
「……違う、よ、たぶん」




ちゃんは否定するけれど、自信がなさそうな上顔がこれ以上ない赤だから、全然説得力がないよ。苦笑しているとその様子が気に入らないらしく、ちゃんは「何笑ってるの!」と怒るのだけど、不機嫌な気持ちは吹っ飛んでいたらしくちょっと恥ずかしそうに笑っていた。さあ、あとは、ほんの少し殴り合いをして、彼女の大切な彼と仲直りをするだけだ。






彼と彼女の










事情





[2007/04/02][HappyBirthday!!]