私は窓の外を見ては溜息を吐く。此処は2階で、少し見下ろせば学校の裏庭で庶民のくっだらないゲームをしているホスト部が見える。微笑ましい光景だけれども、私は大嫌いだ。…ホスト部ばかりに関わってる光が、嫌い。ハルヒくんを抱き締めてハルヒくんが男なのにも関わらず大好きでいる光が大嫌い。私がそんな風に思っていることを、きっと光は知らない。だって光は鈍いんだから。正直其処には感謝している。だって、私がハルヒくんに嫉妬してると気付かれて、嫌われたら嫌だもの。ああ、ほらまたハルヒくんに抱き付いて。私にはそんなことしてくれないくせに。(当たり前か、私はただのお客だもの)(それでも、そうして欲しいと願うのは人間の欲望)ガチャ、と扉が開く。出てきたのは、光と瓜二つの顔で違う人。




「……遊んでたんじゃないの?」
「んー、僕は飽きたから先戻って来たんだよ」
「光はまだ外にいるけど」
「ハルヒがいるからね」




わざとかこの野郎。私が光を好きだと知っていてこの言い方、だから私は同じ顔でも馨は好きじゃない。光みたいに素直じゃない。(光も素直って性格じゃあないけど、馨ほど性悪じゃない)馨と二人きりになんてなりたくなくて、私は部屋を出て行こうとする。だけどそれは叶うこともない。ああ、ウザイ。いっそ腕を掴めばいいのに、なんで髪の毛を掴むかな、痛いわよ。髪は女の命なのに。




「…っ離して!」
「ふーん、結構手入れしてるんだ。全部光のため?」
「関係ないでしょ、ほっといてよ!」




やめてよ。そんな風に私の髪に触らないで。ただでさえ同じ顔なのに、錯覚しちゃうでしょう。光が、傍にいるって勘違いしちゃうでしょう。髪に口付けなんてしないで。アンタは私のことなんか嫌いなんでしょう、私だってアンタが大嫌いよ。光と同じ顔のアンタなんか。心と反対に体は抵抗する気なんて忘れてる。髪から手を離す気なんてサラサラない。ずっと触っていてなんて。くだらないこと願ってるんじゃないよ、私!




「これでもまだ、離して欲しい?」
「煩い、アンタは馨でしょ」
「光だよ」




嘘吐かないで。光は外でハルヒくんとじゃれてる。だから今此処にいるのは馨。私の大嫌いな、馨。(前髪は光と同じ右分けだけど、そんなものいくらだって変えられる)(でも、外にいる光が今前髪をどっちに分けているかなんて、この位置からじゃ判らない)




「光はハルヒくんが好きなんでしょ」
「違うよ、僕はが好き」
「アンタは、かお」
「光だって」




もう何がなんだか、判らない。今目の前にいるの人は馨じゃなくて光な気もしてきて、そんなことはないと首を振る。だから、二人きりになんてなりたくなかったのよ。まだ完全に二人を見分けているわけじゃない私は、目の前にいるのが馨だとわかっていても、光だと錯覚してしまう。とうとう眩暈までしてきた。頭の中身がボーっとしてきて、それと合わせるように光…ではなく馨が、私をソファーの上に押し倒す。




「ね。あそこでハルヒと遊んでいる光と、今目の前にいる光だったらはどっちを選ぶ?」
「ふざけないで、退いて」
「もうは判ってるんじゃないの?」
「煩い、馨!」
「僕は光。ほら、もう抵抗する気なんてないじゃん」




ズルイよ、ズルイズルイズルイ。私に「好きだよ」なんて甘い言葉を囁いて、私に抵抗する気をなくさせて、それから最終的には傷付けるつもりなんでしょう?酷いよ。だって私は目の前にいる光の皮を被った悪魔にやられてしまうんだよ。愛してるだなんて言わないで、そんなこと思ってもないくせに。どうせ、私で遊ぶつもりなんでしょう。愛してるだなんて言わないで。そんなこと言って期待させて、傷付けて地獄の底に突き落として遊ぶのが目的なんでしょう。愛してるだなんて言わないで。私が信じてしまうから。私に関わらないで、これ以上傷付けないで、痛めつけないで。そうしたら私はきっともう、立ち直れなくなってしまう。


でも私は判ってるし知っている。こんな願い事は無意味だって。だって私はもう諦めている。だから降ってくる口付けに応じてしまうんだ。きっと私はこれからも光の名前を呼び続ける。目の前にいるのが、光か馨かなんてもう見境つかなくなってしまっているから。

















[2007/03/31]