わたしがカイと出逢ったのはある日の夜中のある街角。突然変な化け物に襲われて逃げていたわたしを助けてくれたのがカイだった。それからお互い日本人で近い歳ってこともあってか、すぐに意気投合し、たまに逢ったり話したり、デートっぽい感じで出掛けてたりしていたんだ。




「へぇーっ。カイって沖縄出身なんだ。沖縄って海綺麗なんでしょ?」
「あぁ、まぁ…」
「わたし、生まれも育ちも東京だからなー。青い海なんて未だに見たことないよ。」
「……じゃあ、日本に帰ったら来るか?沖縄」
「いいの!?」
「ったりめーだろ」
「うん。楽しみにしてるね」





昔の、小さな子供のように指切りをして約束をした。わたしは覚えてる。あの時言ったことは思ったことで嘘じゃない。だけど、だけどね?わたしは、たくさんの嘘を貴方に吐いたの。貴方は、気付いてた?




「なあ…どういうことだ、これ」




いつしか、笑ってくれるだけでドキドキしたり、こっちも笑顔になったり。こんな気持ちは初めてでずっと戸惑ってた。だけど、カイにはやらなくちゃいけないことがあるように、わたしにもやらなきゃいけないことがある。それが、頭の中でずっとグルグル回っていて如何すれば良いのか判らなくなっていた。わたしとカイを繋ぐ一本の細い細い線、切れないままなら良いのに。ずっとそう思ってきたのに、それは呆気なく、あっさりと切れた。わたしが切ってしまった。




「見ての通りよ。わたしは、貴方を殺すようディーヴァに命令されたの」




「貴方はディーヴァにとって邪魔な人間だから」、わたしがそう続けるとカイは少し暗い顔をした。やだ、そんな顔しないでよ。わたしも釣られて暗くなるじゃない。わたしは、わたしが大切だと思うカイに銃口を向けながら、カイの方へと近づく。そう、わたしは。ディーヴァに忠誠を誓う人間。にんげん。本当はあの時だって翼手くらい簡単に撒くことが出来たわ。だけどわたしはカイと出逢い、信用させたところで殺す予定だったの。だから、一般人のように逃げた。だけど、


信用させるどころかわたしのほうが心を奪われたみたい。




「わたしね、小さい頃に両親共に亡くしてるの。だから、家族とか判らなくて―――でも、カイに小夜さんの話聞いてると凄く心が暖かくなる。なんでだろうね?」
「なっ…お、おまえ……恥ずかしいこと平気で言うなよ…っ」
「あら、でも本当のことだよ?いいなぁ…わたしも、家族が欲しい、」





カイ。カイカイカイ。わたしは、








「じゃあ、やること全部終わったら―――俺と小夜が家族になってやるよ、の」








「ぷっ…やだ。カイのほうがよっぽど恥ずかしいこといってるじゃない!」
「う、うっせーなっ」
「でも、嬉しい」





わたしは家族と言う絆に憧れていた。ディーヴァたちとの関係とはまた違うものがずっと欲しかった。だからね、カイの言葉が嬉しいと思ったことは本当で、本当なんだよ。わたしはカイの目の前まで来て、思い切り背伸びをした。カイって、背、高いのね。




「……っ」
「今日でお別れ。わたし、カイたちと家族になるのは無理みたい」




触れていたものを離して、そっと俯くとぽたぽたと粒が地面に降っていた。それでもわたしは無理に笑って、また銃を持ちながらカイから離れる。カイは、わたしと見つめたままだ。こんなときまでドキドキするなんてわたし変だね。




「お、い……何をする気だ…っ!?」
「少しの間だったけど、楽しかった。有難う、カイ」
「や、めろっ!銃を下ろせ、!!!」






「ごめんね。バイバイ、カイ」































ディーヴァ。ごめんなさい。わたしにはカイを殺すなんて無理なんだよ。だって、ディーヴァよりも大切だと思える存在を殺すなんてわたしには難しいよ。カイを殺すくらいならわたしは。ああ、こんなにも人間を愛しく思える日が来るなんて思わなかった。そうしてわたしは自分の米神に銃口を向けて、引き金を引く。鳴り響く銃声と共に聞こえたのは、愛しいカイのわたしの名前を呼ぶ声。カイ、もっと大きな声で呼んでくれないと銃声で聞こえないよ。




ごめんなさい。さようなら。














[2007/03/24]