はい、。バレンタインのお返しだよ。そこらにいる人を魅了するような顔で、ヒノエは私にそう言って何やら綺麗な包装紙で包まれた箱を渡した。うん、流石ヒノエ。彼が過ごすであろうには初めてであろうバレンタインのこともホワイトデーのこともちゃんと判ってらっしゃる。若い分だけあって、順応も早い。




「忘れなかったね、エライエライ」




言いながら頭を撫でるとヒノエはちょっと不機嫌そうな…不貞腐れた顔をしてる。どうせまた子供扱いしてとかなんとか思ってるんでしょうね。大人っぽく振舞っていても子供は子供、顔に出やすいんだから。そんなところがまた、愛しいのだけど。そんなヒノエに気付かない振りをしながら箱を開くと、中身は空っぽ。…何コレ、エイプリルフールにはまだ早いよ?




「…ヒノエ。これ、如何いうこと?」
「バレンタインのお返し。もやっただろ、同じこと」




…確かにやった。バレンタインチョコよ♥と言いながら中身が空っぽの箱を渡して、箱を開けてあからさまにショックを受けてるヒノエを見て大笑いしてたっけ。同じ悪戯を九郎や景時にもやったけれど、二人は最終的には「全く、はしょうがないな」「ちゃん、酷いよ」程度で終わらせてくれた。だけど大本命であるヒノエは余程ショックだったらしく、暫く不貞腐れてしまったのだ。その後流石にそのままじゃあ気分が悪いから、ごめんねと謝ってほっぺにチューをしたら案外コロッと機嫌は直った。やっぱり子供は子供なのね、と思いつつ口には出さないで置いたが。(出したら出したでまた拗ねるもの)(拗ねてる時が一番子供らしくて可愛いんだけど)まだ根に持っていて、それで仕返しをされるとは思わなかった。




「ヒノエ。男らしくないわね。仕返しなんて」
「これくらいやらなきゃ、は来年もっと酷い仕打ちをオレにするだろ?」
「だからって!私はちゃんと別のチョコだって用意しておいたのに」




そうなのだ。ごめんねって謝った後、すぐに「これが本物よ」と言ってあらかじめ用意しておいた本命チョコをヒノエに渡したのだ。それなのに、悪戯のお礼はしておいて本物のチョコのお礼はしてくれないの?半分は3倍返しのお礼が目的でチョコを配ってるようなものなのに。大大大本命からお返しが貰えないとなると、それは振られたも当然。…私、ヒノエと別れなくちゃいけないの?嫌だわ、そんなの。色々な意味で自業自得だけれど、こんなくだらないことで別れるとか有り得ない。嫌よ、絶対絶対絶対。








「馬鹿だね」
「…え?」
「どうせお返しがないからっていじけてたんだろ?って案外子供っぽいからね」
「むっ…ヒノエだって、子供じゃない」
「……。ま、もうに子供扱いされるのは慣れたけどね」




やれやれという風に肩を竦めているヒノエ。嘘吐け。そんなこと言って、クールに見えて案外子供扱いされることが嫌いなくせに。それからヒノエは隠し持っていたらしい別の箱を私に差し出す。「これが本物のお返しだよ、姫君」甘い声でそんなこと囁いたって、私には通用しないんだから。どんなに頬が熱くなっていても心臓が煩いくらいに速くなっていても、私には通用しないんだから。ドキドキしながら箱を開けると同時に、降ってきた口付けになんて、応じてやらないんだから。本当は、ちゃんとお返しが貰えて安心しただなんて、絶対言ってやらない。言わなくても、ヒノエには判ってるようだけど。






白い日、










悪戯少年





[2007/03/13]