ラビくんは女の子が好きです。一応生物的に女であるわたしに対しても、他の女の子と同じように優しいのです。可愛い、なんてことも言ってくれます。お世辞だということくらいわたしにだって判っていますけれど、それでも単純なわたしは褒めてもらえて嬉しいと感じてしまうのです。こんな不細工なわたしに、そんなことを言ってくれたのはラビくんが初めてです。そして単純なわたしはやっぱり、恋をしてしまうのです。、とわたしの名前を呼んでくれるだけでわたしの心臓は跳ね上がります。笑顔をみるだけで頬は赤くなります。抱き付き癖は少し困りますが、抵抗しつつも、やっぱり嬉しくて暖かくてわたしは幸せになれます。わたしはありったけの勇気を出して、先月バレンタインのチョコをラビくんに渡しました。勿論、本命。だけど告白をするという勇気がなかったわたしは、「ぎぎぎ義理なんです!」とどもりながら渡してしまったのです。それでもラビくんは「サンキュ」と笑ってくれたのです。わたしはそんな笑顔が見れただけで幸せだったのです。わたしはもう本当に、それだけでいいと思っていました。好きになんてなってもらえなくてもいいんです。わたしには到底無理なのです。だからわたしは、ラビくんが隣で少しでも多く笑ってくれることを願うのです。それだけ。嫉妬しないとか、少しも欲望はないといったら嘘になるけれど。


だから今わたしは今この状況が信じられません。突然、あのわたしの心臓を跳ね上がらせる声で、と呼ばれ、振り向いたらわたしの頬を熱くさせる笑顔が其処にあったのです。「はい、ラビくん。なんですか?」出来るだけ冷静を装って返事を返すとラビくんは「プレゼントさ!」と言って、なにやら可愛らしい包装紙で包まれた箱を渡されました。…あれ?でも今日はわたしの誕生日でもなければ何処かの神様の生まれた日を祝う聖なる日でもありません。春が次第に近づくなんてことのない3月のとある日、ですよ。何で突然プレゼント?考えれば考えるほど、判らなくて。そんなわたしの様子に気付いたらしいラビくんは、「わかんない?」と顔を覗き込んできました。う、わ!そんな、顔近い、ですよ!驚いて後ずさると、「その反応はちょっと傷つくさー」と笑うラビくんがいます。…。




「ご、ごめんなさい…」
「んー。オレ素直な子は好きさぁ」
「それで、えっと。これ、なんのためのプレゼントですか?」




ラビくんが、好きとか簡単に言うもんだから、ときめいてしまったではないですか。ラビくんはわたしがラビくんの言葉一つ一つにどれだけ反応しているか知らないんだ。(知っていたとしても何の得にもならないけれど)ラビくんはわたしの質問に、またニッコリ笑って(よく笑うなぁ)、「当ててみて」と言ってくる。…わかんないから聞いたのに。




「もう。意地悪言わないで教えてくださいよ」




「本当にわかんない?」その言葉にわたしは縦に首を振りました。わたしのその行動に苦笑いしながらラビくんは今日は何日か聞いてきたので、今日は14日ですよと言おうとしたらそれは声に出されることがその代わりに「あ」というなんとも間抜けな声をだしてしまいました。2月14日はバレンタイン、そして3月14日はバレンタインのお返しをするホワイトデーです。え?ということは?




「お返し、…ですか?」
「せいかーい」
「で、でも……いいんですか?あれ…ぎり、でしたし…」
「いいんさ。てか、貰ってくれなきゃオレが困るんだけど」




うわ、うわ。困った顔するラビくん、少し可愛い。それからその可愛らしい包装紙で包まれた箱を眺めます。嬉しいです。だって、お礼が欲しくて渡したわけではないのに。如何しようもなく嬉しいのです。わたしは義理と言って渡したのに、そんな義理に対してでもお礼をしてくれるラビくんが、とてもとても好きだと感じます。




「お礼、返すの大変ですか?」
「へ?」
「だって、沢山貰ったんでしょう?なのに1人1人お礼をするなんて、意外と律儀なんですね」




褒めたつもりでわたしはそう言ったのですけれど、ラビくんは怪訝そうな顔をします。わたし、なにか不快になることでも言ったのでしょうか。会話が下手。わたしの短所の1つです。




「あのさ、
「はい?」
「俺は女の子は好きだけど、好きでもない女の子にホワイトデーにお返しするほど律儀じゃないんさ」




え?女の子は好きでも好きじゃない女の子にお返しはしない?なんだか矛盾。だって、ラビくん女の子が好きなのに好きじゃない女の子も存在するの?…あ、わたしみたいに綺麗でも可愛くもない女の子は好きじゃない、ですよね。ラビくんは結構面食いですから。でも、それなら如何してその綺麗でも可愛くもないわたしにお返しを?ううん、新たな問題が発生しました。わたしは、馬鹿だから。そんなところまでわかりません。ラビくんみたいに頭がいいわけじゃないから。ああ、もう。なんだか泣きそうになっています。アクマにどれだけやられても痛くても痛くても、わたしはそんな簡単には涙なんて流さなかったのに。精神面で責められると如何してこんなにも弱いのだろう。こんなプライベートで、自分があまりにも馬鹿でもしかしたらラビくんに見放されてしまうのではないか、隣にいることすら許してもらえないんじゃないかということだけで。ううん、でもわたしにはすごくすごく重要なことなの。




!?な、なんで泣くんさっ」
「…だって、わたし。わかんないんです。ラビくんみたいに頭なんてよくないから、ラビくんが如何いう意味で律儀じゃないって言ったのか、わかんないんです」
「……それだけ?」
「それだけって…」
「じゃあ、もっとわかりやすい言葉にすれば、に伝わる?」




わたしの心臓を速くさせる声でわたしの名前を呼んで、顔を上げれば、わたしほどではないけれど少しだけ頬を赤くしているラビくんが笑って、わたしに言う。うん、これならわたしにも意味が判る。だけど、だけど。こんな幸せわたしが感じちゃってもいいの?可愛くも綺麗でもない、わたしが。「いいんさ、は可愛いんだから」










兎の言の葉



、来年は義理じゃなくて本命チョコが欲しいんさ」





[2007/03/12]