「はい、いっちゃん」 俺の家に訪ねてきたがそう言いながら渡してきたのは、オレンジ色の紙に包まれた物体。それを見て俺は遠い目で、ああ、そういえば今日はバレンタインデーだったなと思いにふける。去年は大変だった。生まれて初めて料理をしたのチョコは、チョコなのに何故か紫色をしていて何か得体の知れない物体がウニョウニョ動き回っていて、気持ち悪い上に非常な不味さだった。だけど目の前でキラキラさせてみているを見ているとそんな率直な感想を言えず、必死に笑顔を作りながら親指を立ててやると、はさらに嬉しそうな顔をして「それならもっとあるからあげる!」とありえない量のチョコを押し付けてきたのだ。それを全部食べきった末には、翌日謎の発熱でダウン。其処でやっとは自分のチョコの恐ろしさを知ったのだった。涙ぐみながら「ごめんね、いっちゃん。私が料理下手なせいで」と言われて許さないわけはないのだけれど、もう二度とあんなチョコは食わせないでくれとのことになった。だから今年は、恐らく見たところ市販のチョコなのだろう。 「すっごいんだよ、このチョコ」 「…見たところ普通のチョコだけど」 「ななななーんと!中にオレンジが入っているのです!オレンジチョコ!いっちゃんチョコ!!」 「……へぇ」 「もう、いっちゃん連れないなー。もうちょっとノッてくれたっていいじゃない」 そんなの台詞をスルーしながらチョコを見る。…確かに去年は酷い目にあったけど、だからって一口サイズのオレンジチョコを1つというのはねぇよ。そんなにオレンジチョコがいいならあともう5,6個持ってきたって良かっただろう。流石に1個は、虚しい。 「じゃ、私今度他の人にも渡しに行くから!」 「待て待て」 「もー!何よ、これでも私は忙しいのにっ!」 「……その他の奴と俺のこのチョコの差はなんだ」 の持っている袋からチラリと見えたのは、綺麗な包装紙に包まれた市販のチョコでもちゃんとしたバレンタインチョコ。対して俺のは、其処らのコンビニで売っているような紙に包まれた小さな一口サイズのオレンジチョコ。新手の嫌がらせか?別にチョコの数とか大きさとかそう言うんじゃなくて、がくれるものだからそういう差があると悔しい。はは、これは本格的に惚れこんでいるな。俺が真剣に聞いているのに対して、はニッコリと何時もどおりの天然スマイルで俺へ返事をする。 「だって、それ最後の1個だったんだもん」 「……は?!」 「最後の1個はいっちゃんにあげたかったの。他の人じゃなくていっちゃんに。だから急いで持ってきたんだよ」 自分はなんて単純な構造で出来ているのだろうと思う。豪華だとかコンビニの市販だとか、そういうのじゃなくて、は俺のことを想っていてくれて、最後の1個を必死に持ってきてくれたのか。詰まらないヤキモチを妬いた。そもそもそんなもの妬いたところで本人には通用しねぇんだ。そうして俺の用も終わったということではイソイソと俺ンちから出て、続けて別の奴に渡すために出て行こうとする。それを俺はもう一度止めてから、 「俺も行く」 「…うん!」 ああ、来年は胃薬を用意してもう一度手作りチョコでも頼もうか。 |
ORANGE HAPPY DAY