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朝からどうもフラフラするなぁとは思っていた。少し肌寒いとも思ったけど冬なんだから仕方がないし当たり前だ、ということで片付けてしまった。だけど不運には不運が重なるようで、あれだ。今日は体育があった。男子は外でサッカー、女子は体育館でバレー、だ。そう、私は其処で当然、ぶっ倒れたのである。(ちなみにそんな私を担いでくれたのはたつきちゃんだそうだ。なんて頼もしいお方…!)そして眼が覚めれば保健室。上からは制服を着たいっちゃんが何時もの不機嫌そうな顔で覗き込んでいた。




「あれ、おはよう。いっちゃん」
「今はもう昼だ」
「そうなの?でも全然お腹空いてないや…なんでだろう」




保健室の時計を見ると、確かに12時を廻っている。可笑しいな、何時もならこの時間はグーグーお腹が鳴っているのに、今日は寧ろ食欲がない。食べたくない。そんな私を見て、いっちゃんははぁーと深い溜息を吐いて、呆れたように言った。




「お前、風邪だって」
「かぜー?私、そんなに柔じゃないもん」
「柔だろうがそうじゃなかろうが、風邪なもんは風邪なんだから認めろよ。ほら、帰るぞ」
「うん………って、あれ?いっちゃんも帰るの?」
「ったりめーだろ。途中でぶっ倒れたら如何すんだよ」
「通りすがりの人に助けを求めるよ」
「バーカ」




ベッドから起き上がって、ひょこひょこいっちゃんの後を追う。ちょっとフラフラするけど、いっちゃんが隣なら平気。と、左隣へ行って歩くと自分の足に軽く何かが当たった。いっちゃんはすぐに気付いて「悪ぃ」と謝ってくれたけど、私はそんなこと気にしない。それより気になるのは手に持っているもの。いっちゃんは右手に自分の鞄を持っていて、それを肩に担いでいる。そして左手にも鞄。私は手ぶら。学校の指定のバックは1つだし、いっちゃんは二つも普段鞄を持ち合わせてなんていない。そうなると如何考えても、それは私の鞄だった。




「いっちゃん、私鞄くらいは持てるよっ」
「はいはい…病人は大人しくしてろって」
「ぶーっ。子ども扱いしないでよ」




鞄を奪おうにも風邪を引いている私にはそんなこと不可能に近いことだった。そもそも仮に病人でなかったとしても、私より背の高いいっちゃんが腕を上に上げたらもうお手上げだろうに。いっちゃんは如何あっても譲らない。私もフラフラで結構辛いので、もうこれ以上じゃれるのは無理かな、と諦めた。




「………昨日、」
「…ん?」
「遅くまで起きてただろ?何してたんだよ」
「……勉強。私、いっちゃんほど頭良くないからさぁ…でもそのまま寝ちゃったんだよね」




えへへ、と自分の頭をかいて言ったら、いっちゃんの不機嫌そうな顔がさらに不機嫌になった。それから盛大に溜息を吐く。(本日二度目だ。幸せが逃げちゃうよ)どうせ、また馬鹿だなぁとか思ってるんだろうな。




「そんな顔してると、また怖いって言われるよ」
「悪かったな、元々こういう顔だ」
「…それもそうだけど」
「否定しろよ」




うん、知ってるよ。いっちゃんは私のこと心配してくれて、そういう顔してくれてるってことくらい。だけどね、私はいっちゃんみたいに運動神経がいいわけでもないし、頭がいいわけじゃないから、少しでもいいから追いつきたかったの。昔は成績も背の高さも同じくらいだったのに、何時の間にかどんどん成長しているいっちゃんが遠くに行くようで。だから、慣れない勉強してみたらこの様だ。あーあ。私、いっちゃんに迷惑かけることくらいしか出来ないのかな。




「……――――栞」
「ん?なぁに?」
「あんま、無理すんなよ。勉強なら、俺も一緒にやるし」




嬉しかった。だって、いっちゃんは勉強を教えるとかそういう上から見た言い方じゃなくて、一緒にやるって、同じ目線で言ってくれたんだもん。いっちゃんは、昔より成績も全然良くなっちゃって、カッコよくなって、すごく強くなって、背もすごく高くなっちゃったけど、何にも変わってない。いっちゃんはいっちゃんで、いっちゃん以外の何者でもない。ずっと、不器用で優しいいっちゃんのまんまだ。見上げればいっちゃんの真っ赤な顔、思わず嬉しくて、思い切り、抱きついた。




「いっちゃんだいすきーっ!」
「わっ、ばか。お前病人なんだから大人しくしてろ!」
「ふふふ、いーの。いっちゃんにうつすから」
「うつすなっ!」















[2007/02/04]