あたしには好きな人がいる。去年同じクラスだったオレンジの髪の男だ。だけど今年は同じクラスになんてなれなかった。何故なら彼は、生き別れの妹を探し回って学校を休みまくって挙句の果てに留年したからだ。なんて馬鹿なのだろうと思いつつも、そんな風に一生懸命なところを見ると何故だか愛おしく思ってしまう。…こんな風に思ってるなんて彼が知ったら絶対引く、うん、絶対。だから言わない。仲のいい友達同士でいいのだ。あたしはこういう考え方の持ち主なので友達にはよく、「意外と消極的だよね」って言われる。うん、あたしもそう思う。あたしは見た目はどちらかというと今時の女子高生という感じなので、友達には恋をするとものすごくアタックしそうなイメージがあるようだ。(だけどそれはただの偏見)でもあたしは結構臆病で、彼との関係が壊れるのが酷く怖い。だけどそんな彼がある日突然行方不明になった。彼と同じクラスの女の子とその後輩と共に。吃驚してあたしは固まった。固まったどころじゃない、ずっとずーっと放心状態で彼のいない生活を過ごしてきた。だけどそれも終止符を告げる、彼が戻って来たのだ。だけどこの穴は結構大きかったようで、彼が帰ってきてからと言うものあたしは一度も彼のクラスへ行っていない。なんだか怖いのだ、忘れられていないかどうか。(友達には「そんなちょっとやそっとで忘れるわけないじゃんっ!もっと自信持って!」と応援されるが、あたしには無理だ)なので彼が帰ってきてからも1ヶ月、話すことも逢うこともなかった。 そんなあたしは今史上最大のピンチを抱えてる気がする。なんせ、今まで話すことも逢うこともなかった彼と、人気の少ない道で、予備校帰りに逢ってしまったのだ。思い切り眼も合って、向こうもなんだか気まずそうにしているあたり、なんだかあたしのことを覚えている気もするのだが、もしかしたら顔は覚えているが名前が思い出せないから困っているのかもしれない。気まずいけれど、あたしのほうから口を開く。 「森村、じゃん。なんか久しぶり」 「あ、ああ。そうだな」 ああ、声が震えた。格好悪いくらい震えた。しかも動揺しているし、名前を呼ばれなかった。覚えてないんだ。そう思うとあたしの心はずどーんとどん底、地獄へと突き落とされる。こんな風になったあたしは簡単には引き上げられない。寧ろ自分でどんどん墓穴を掘って堕ちていく運命なんだ。 「いや、全然逢わなかったし。忘れられてるのかと思ってたんだけど、」 「それはあたしのほうっ」 「そうか」 「2ヶ月間も何処行ってたの?行き成りいなくなるから、吃驚したじゃん」 「あー…まぁ、色々と、な」 「…ふーん、あたしには教えてくれないんだ。あ、そういえばクラスの子も一緒だったんだっけ?駆け落ちでもしたの?」 「別にそんなんじゃねーよ。可愛くねぇな」 本当、あたし、なんて可愛くない女なんだろう。こんな風に意地張って。素直に教えて欲しいって、気になるって言えればいいのに。こんな風にクラスの子をネタにして笑って、本当最悪だ。こんなんじゃ好きになってなんてもらえない。あたしの片想いで終わってしまう。 「妹、見つかった」 「…え?」 「もさ、一緒に探してくれたりしたから。一応報告しておこうと思って、」 「そ、そうなんだ…」 あたしの未来はお先真っ暗だ。唯一あたしと森村を繋ぐ点、妹さんを探すということが終わってしまった。これであたしはわざわざ下級生の教室まで行って森村を迎えに行くことなく、普通に友達と帰ることになる。彼と逢わなかった日々と同じように。なんで、今年も同じクラスじゃないんだろう。なんで後輩になっちゃったんだろう。留年なんてしなければ良かったのに。妹さんがいなくならなければよかったのに。あたしがそんな風に思っても過ぎてしまったことは戻ることもなく、動き続ける。そうしてあたしはどんどんんと墓穴を掘る。密かに名前を呼ばれていたことになんて気付かないまま。どんどん、どんどん掘ってしまう。そうして「じゃあな、気をつけて帰れよ」と言う森村の背中に向かって、あたしは矛盾した言葉を放って、 「森村ぁー!!あたしは、一応…先輩なんだからね、敬語使いなさいよ!」 [2007/02/01] |