馬鹿みたいに不安になる時がある。悩んだところで仕方がないのだと判っていても人間は悩まずにはいられないのだ。わたしだってそう。


わたしには、好きな人がいる。その人には既に告白だってしたし、向こうもわたしのことを好きだといってくれた。だけど、思う。それは本当にわたしの言ってる「好き」と共通しているものなのだろうか?もしも相手が、三蔵や悟浄八戒だったらこんな悩み方はしない。だって、いくら女に興味のない人や女タラシや昔の女引き摺っているような人でも、ちゃんと好きだとかそういうことに関しては理解しているもの。だけど、わたしの相手はなんと言っても悟空だ。悟空は、基本的には食べ物のことしか考えてなくて、すごく純粋で、三蔵のことをすごく信頼している。だから、少し考えてしまうのだ。わたしに言っている悟空の「好き」はもしかして友情で、本物の「好き」は三蔵へ向いているのじゃないか?とたまに思ってしまうのだ。だって、三蔵はそこらの女の人に負けないくらい綺麗な顔だし、カリスマ性があるし、何より悟空の中心を動く人なのだ。世の中ホモがいたって可笑しくともなんともないし、悟空が無意識のうちに三蔵にそういう感情を持っていたって可笑し(いところはたくさんあるけど、理由を述べれば納得は出来なくもないし可笑し)くないのだ。わたしは小心者でネガティブなのでそう考えれば考えるほど、悟空がわたしを好いてくれている可能性は低くなり、逆に三蔵は高くなるのだ。そうしてわたしはわたしの妄想だけで三蔵に嫉妬する。ああなんて醜いのだろう、わたしは。三蔵は嫌いじゃない。寧ろどちらかというと好きな部類で(このメンバーで嫌いになれる人なんかいないよ)すごく信頼もしているので、出来ればこんな醜い感情を持っていることは本人にはバレたくはないのだ。わたしはわたしの不本意な行動で皆に迷惑をかけるわけにはいかない。だって皆大好きなんだもの。だけど、わたしが悟空をそれとは別の意味で好きで、そう思えば思うほど三蔵へ嫉妬してしまう。わたしは、わたしが嫌いだ。こんな感情を持っているわたしが。




「だからって、何でオレに相談するワケ?」
「だって、悟浄ってなんだかんだで面倒見いいんだもん」
「他人のレンアイゴトなんて興味ねぇーっての」




「ましてやあのバカザルのことなんか」と文句を言いながら、新しい煙草を箱から出して吸い始める。そう言う風に興味なさそうに、面倒臭そうにしていても、さり気に真剣に聞いてくれる悟浄はわたしの一番の相談相手だ。恋愛術とか沢山ありそうだし、聞き流すように聞いてくれるものだからこっちも話しやすいのだ。




「言っとくケド、三蔵は男だぜ?はサルと坊主をホモにしたてあげてぇのか?」
「ち、ちがうよっ」
「だったら、んな心配しなくてもいいんじゃねぇ?」
「でも、しちゃうものはしちゃうんだもん」




そもそも、ホモにしたくないからこんなに悩んでいるのではないか。悟浄はそんなわたしの意見も一応理解してくれているらしく、口に銜えた煙草を、ハァと出した。白い煙がわたしたちの周りを覆う。それからわたしをチラッと見て、軽く溜息を吐く。




「ったく、これだからお子ちゃまの恋愛は面倒臭ぇんだよ」
「お子ちゃまだって真剣なんだよ!」
「ヘイヘイ」




やっぱりわたし、人選ミスしたかもしれない。なんだかんだで面倒見はいいし、聞き流すように聞いてくれるから話しやすいっていうのはあったけど、確実にわたしのことを馬鹿にしている。だって、現に悟浄の傷の付いた頬は上に上がっているもの。酷いなぁ、わたしは真剣なのに。悟浄は女の子が好きだけど、わたしに対しては苛めることの方が好きみたい。うう、こういう時は無難に八戒に相談すればよかったかもしれない。今更後悔してももう遅い。わたしの後悔の顔が思いっきり表に出ていて、悟浄はそれを見てクックと笑っている。それが悔しくて思わず手元に持っていた枕を悟浄の頭目掛けて投げつけてやった。




「っンのお子ちゃま!!」




扉を閉める前に聞こえた悟浄の怒鳴り声は無視してわたしは悟浄の部屋のドアを開けると同時に悟空の姿を見てしまった。悟空もわたしに気付いて、ジッとこっちを見ている。なんか、ちょっと怒ってる?わたし、なにか怒らせるようなことをした?そう思いながらも一応扉は閉めておく。




「其処、悟浄の部屋」
「うん、知ってる」
「何してたの?」
「ちょっと相談ごと」
「……俺には言えないのか?」




いえないよ。当たり前じゃない、悟空のことなんだから。そう言いたいのだけれども、言えない。金色の瞳が私を捉えていて、逃げようにも何時の間にか腕を掴まれていて逃げることすら適わない。ゴクッと息を呑む。声が出ない。心臓が爆発しそうだ。




「なんで、怒ってるの…?」




やっと出てきた言葉はそれだった。結局、悟空の質問には答えていない。わたしがそう言うと悟空は眼を逸らす。綺麗な金色が逸らされてしまった。




「別に…怒ってない」
「嘘、怒ってるじゃん。すごく」
「怒ってない」
「怒ってる」
「怒ってないって!」
「絶対怒ってるもん!!」
「ぜってェ怒ってねェ!」
「怒ってる!!!」
「だァァ!!人の部屋の前で痴話喧嘩するな!!」
「いっ!!」




わたしたちの怒鳴り声が聞こえたのか、悟浄が勢いよく扉を開けて怒鳴りかけてきた。わたしは扉の前から動いていなかったので、悟浄の開けたドアが思い切りわたしの頭にぶつかる。い、痛い。その衝撃に耐えられず、わたしは頭を抱えてその場にしゃがみこむ。悟空はそんなわたしを心配してくれているらしく、しゃがみこんでわたしの顔を覗き込んだ。




、大丈夫かっ?」
「う、うん…ちょっと痛いけど、平気」
「悟浄、気をつけろよっ」
「ンなとこで痴話喧嘩してるお前らが悪い」
「んだとっ」
「悟空、頭に響くから叫ばないで」




そのまま喧嘩に発展しそうなので、わたしは素早く悟空に注意した。結構痛みは引いている。だけど、今こんな状態で怒鳴られたりしたらもう頭に響いてしょうがないだろう。わたしはそう言うと、悟空は罰が悪そうな顔をして「ごめん」と謝ってくれた。悟浄は何時の間にか部屋に戻っている。(後でシバいてやる)それからその廊下に二人で暫く会話もなく、そのまま座り込んでいた。こんな状態が続くのは初めてで、わたしはそれが耐えられなくなって、悟空に話しかける。




「悟空、ごめんね」
「な、なんでが謝るんだよ…」
「だってさっきのはわたしが悪いし。悟空が怒ってないっていうならそうなんだよね。ごめん」
「あ、いや…あの。俺、なんかよくわかんねーんだ」
「…?」
「怒ってるとか怒ってないとか。よくわかんねーけど、なんか…と悟浄が部屋で二人でいたのかって思ったらすげームカついてさ、」
「………」
「しかも、なんか何やってたのか教えてくれねぇし、」
「本当に、ただの相談ごとだよ?」
「でも、そういうの…俺にしてほしい。俺、馬鹿だし全然役に立たねぇかもしんねぇけど」
「ううん、嬉しい」




わたしだけじゃなかった。悟空は気付いてないかもしれないけど、そういうのヤキモチって言うんだよ。悟空は、悟浄に嫉妬してくれて、それで怒っていてくれたんだって思うとすごく嬉しい。


わたしは、なんて我侭だったんだろう。悟空はわたしを想ってくれているのに。わたしが表すカタチとはまた別のカタチで愛を表現してくれていたのに、それに気付かないで、勝手にホモだとか三蔵だとか色々考えて悩んで悟浄に相談して怒って怒鳴って喧嘩して。嫉妬しているのはわたしばかりじゃなくて、悟空も一緒だったのに。わたしは全然気付いてあげられなくて、ごめんね。謝罪の気持ちと同時に膨れ上がってきた気持ちをわたしは抑えきれずに、思わず悟空をギュっと抱き締める。最初は戸惑っていた悟空だけど、暫くたってからわたしの背中にそっと手を回してくれて、お互い抱き締めあった。幸せ。密かに、わたしたちのキューピットとなってくれた悟浄には感謝しなければならない。今度、街で友達になった綺麗なお姉さんを紹介してあげようかと考えていたら、悟空の抱き締める腕がちょっとだけ強くなったので今はそんなこと忘れて、悟空のことで頭を一杯にしようと少し離れて、小さなキスをした。










子様ランチ










いかが





[2007/01/25]