「あたし、此処で降りる」 車の前であたしがはっきりそう言うと、悟空は驚いたようにあたしのほうを見て、悟浄はポロッと煙草を落とし、八戒は何時ものニコニコ笑顔が消えて目を見開いて、三蔵は何時ものように睨んだような目つきの悪さであたしを見ていた。ああ、なんというか予想通り。昨日、何度もシュミレーションしてみた甲斐があったわ。あたしはそんな皆を余所に、自分のあまり多くない荷物を片手ににこりと笑う。 「ちゃん、ちょっと冗談にしてはキツくない?」 「冗談で言ってたまるか、ゴキブリめ」 「さて、それにしても唐突ですねぇ…とうとう悟浄に愛想尽きましたか?」 「オレ限定かよっ!!」 「そうね。それも、ないと言っては嘘になるかな」 …なんて、嘘だけど。だってあたしはアンタたちに愛想尽きたことなんて一度もないし、多分これからもない。大食いだけど純粋で素直な悟空、女好きだけどさり気に一番仲間思いな悟浄、腹黒いけど何時もニコニコで優しい八戒、それから――今見向きもしなくて冷たいけど誰よりも存在感のある三蔵。あたしは全部が全部大好きで、大切すぎたんだ。本当は誰よりも別れを惜しんでいるのはあたし。だって、皆と別れたくなくて着いてきたんだもの。でもそれもお終い。あたしは、ちゃんとケジメをつけなきゃいけないんだ。そう、だって、 「行くぞ」 「え、でもはっ?!」 「本人が降りるっつってんだ。止める権利は俺たちにはねぇだろ」 「そうだけど、なんか…もっとなんかあるだろっ!?」 「いーの、悟空。三蔵が言うことはご尤もだもん」 止めてなんてくれないことくらい、想像ついてたけどね。なんだかんだで短いようで長い付き合いだし、判るよそれくらい。だけど、やっぱり何かあるといいなって期待しちゃうのが人間で、あたしもその人間のひとりで。だから、やっぱりこういう結果はショックだなぁ…。あたしはなんて弱弱しい人間なんだろうね。悔しくて、涙が出そうになるくらい弱いよ。やっぱり皆のように強くなんてなれないよ。足を引っ張っちゃうよ。こんなところで、涙を流すわけにはいけないのに。そんなもの、見られたくなんてないからあたしは急いで4人に背を向ける。 「…?」 「早く、…行きなさいよ」 「だけど、」 「あたしみたいなのがいても、ただの足手まといにしかならないよ」 「………」 「それに、あたしは勝手に着いて来ただけだもん。それで迷惑かけてたら…降りるしかないでしょう?」 「のこと、迷惑とか思ったことねぇよっ!!」 「…ありがと」 ほら、早く行っちゃって。じゃないとあたしの眼から涙が零れ落ちそうなの。もう滲んで前が見えないの。だから、早くいって。あたしの最後のプライドなんだから。絶対に涙なんて、見られたくないのだから。ねぇ、あたし性格知っているでしょう?そんなあたしの思いが伝わったのか、足音が聞こえてきた。ジープに向かっているのだろう。お互い背を向けて。 「…ちゃっちゃと牛魔王倒さないと殺すから」 「だったら殺される心配ねぇな」 「俺たち最強だし!」 「ですから、もどっかの街へ移り住んだりしないでくださいね?」 「……え?」 「いなかったら殺す」 ああ、これは。遠まわしで直球で、彼ららしい。あたしに待っていて欲しいのなら素直にそういえばいいのに。だけど、仕方がないから待ってあげるよ。だってあたしは、アンタたちのことすごくすごく好きだもん。動き出すジープ、それから汚い排気ガスはあたしを包み込んで、青い空の下であたしは独り、泣いた。暫しのお別れだ、早く返ってこないと殺すんだから。これがあたしたちなりの、お別れの仕方。 |
撃ち方