季史さんは桜が降る中で舞っている。舞人である彼の舞は綺麗だ。私は彼の舞を見るのがとても好きなんだ。これ以上なく綺麗なものが何よりも好き。愛おしい。だけどふと思う。彼は今、誰を想って舞っているのだろうか。そんなこと、考える間もなく思い当たる人物が浮かんでしまう。誰もがみな、私の同級生に好意を持っている。天真くんも詩紋くんも、最初は使命を果たすだけだったはずの頼久さんも、何かに夢中にはなったりしない友雅さんですら彼女に夢中となっている。季史さんだって例外じゃない。それはいくら恋愛に鈍い私にだって判るくらいの揺るぎない真実。そして私は本当にただの女子高生。あかねちゃんのただの同級生。必要のない存在だということくらい知っている。それも、揺るぎない真実。 如何してだろう。彼の舞はとても、とてもとても綺麗で美しいのに、胸が締め付けられるように痛くて切なくて、こんなにも愛おしい。 「……」 「は、はい。なんですか…季史さん」 「何故涙を堪えたような顔をしている?」 何時の間にか桜の下から私のいる縁側に移動し、私のことを心配そうに見つめていた。…やっぱり季史さんにはバレバレか。優しい人だもの。だからちゃんと気にしてくれている。そう思うと嬉しさで一杯になるけれど。私はあかねちゃんじゃない。あかねちゃんじゃないのに、優しくしてくれるということも嬉しい。でもやっぱり私はあかねちゃんにはなれない。 「なんでもないですよ。続けてください」 「ああ…だが、」 「大丈夫ですって」 本当は大丈夫なんかじゃないのだけれど。これ以上心配させるわけにもいかないし、私はもう心配なんてしてほしくない。だって私がもっと辛くなるもの。もっと愛おしくなってしまう。私は、今でも胸が張り裂けそうなくらい痛いのに。ほらほら、と彼の背中を押し桜の方へと向かわせる。ああ、こんなにも暖かい。暖かいのに、如何してだろう。堪えていた涙が零れ落ちてしまう。痛い。痛い。胸が痛い。如何して私はあかねちゃんじゃないのかな。あかねちゃんになりたいよ。暖かくて、眩しくて、私には到底届かない人。思わず私は、彼の背中を押していた手を丸めて彼の衣を掴んでしまう。こんなんじゃ、大丈夫じゃないって自分で示しているようなものじゃないか。私は困らせたくないのに。でも、涙は止まらない。 「……?」 「舞ってください」 「……だが、泣いている」 「私は、季史さんの舞が好きなんですよ。すごく、すごく」 「…………」 「だから、舞ってください」 「………が、そう言うのなら」 あまり笑わない季史さんが笑った。あかねちゃん以外にはそんな笑み見せてくれるわけはないと思っていたのに、笑ってくれた。ねえ、私。想っていてもいいのかな。叶わなくとも、願い続けてみたいとすら考えてしまう。さあ、舞って。綺麗な笑みと、桜と、月明かりの下で。 |