「」 低くて掠れたような声で名前を呼ばれた。ベッドの上に座り込んで本を読むことに集中していた私は、あまりの突然のことに驚いて肩を震わせる。何時の間にか私は光に後ろから抱き込まれていて、耳元で名前を呼ばれたことには吃驚した。振り向けば光が私を見つめて、さらにギュッと私を強く抱き締める。 「…何?光」 ドキドキしていることを悟られないように返事をしたけど…多分、バレている。顔を見れば真剣だけれども何時もと同じ意地悪い顔が其処にあって、私のコトならなんでもお見通しとでも言いそうだ。…にしても、あんな声で名前を呼ばれるなんて初めてのことだ。耳元に息を吹きかけられることは悪戯でしょっちゅうだけれども、こんな風に呼ばれたことはない。私がした返事に、光はまた先ほどと同じ低くて掠れた声で答える。 「俺、が好きだよ」 「うん…知ってるけど」 「だから、が欲しいんだけど、貰っちゃ駄目?」 「……っっ!」 あまりに直球な質問に顔を赤くせざるを得ない。ああなんてことだろう。緊張しすぎて声すら出てこない。 「………?」 「ちょっ…見ないで」 声は出たけれど、きっと光の期待している答えじゃない。駄目だ、まずは落ち着こう。私だってお嬢様であっても俗に言う女子高校生だもの。欲しいの意味だって判らないわけじゃない。(寧ろ判っているから答えられないのだ、)光のことはすごくすごくすごく好きだし、嫌な訳でもない。だったら、如何して答えが出てこないのだろう?私は光が好きで光は私が好きで、そういう行為をするならば問題がないはずなのに、如何してだろう?…駄目だ、全然判らない。私はそれほど頭は良くはないから。と其処で初めて、私の首に巻きついている光の腕が少しだけど震えていることに気付いた。 「は僕が相手じゃ嫌?」 「そんなわけないじゃないっ。私は光が好きなんだもの」 「じゃあ…怖い?」 「怖い」その言葉で気付いた。震えているのは光だけじゃなくて、私もだということ。そうだ、私は怖いんだ。初めては痛いと聞く。怖いんだ。そして光も平気そうな顔をしているけど怖いと思っている。だって私と同じくらい震えている。…でも、うん、私は、大丈夫だ。光と一緒なら。だって私は、光が好きなんだもの。 「怖いよ。でも、光だから平気。だから――いいよ」 「……あとで嫌だって泣いても知らないからねっ」 知らないからね、って。光が欲しいって言い出したのに矛盾してるよ。でもまあ、そんなところも好きなんだけどね。気付いたら私が読んでいた本は光に奪い取られていて、そんなことに気づかう余地もなく二人でベッドに倒れこむ。スプリング音はやけに大きく聞こえた。 あいうぉんちゅー [2006/12/15] |