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「栞ー?…あ。髪結んでるんだ。珍しい」 とある休日、私の部屋の扉をノックもかけずに開けて(もう日常茶飯事だ)、顔を覗き込むように出して馨君が言った。珍しく光君とは別々に来たらしい。今いるのは彼ひとりだ。(それにしても、私が着替え中だったら如何するつもりだったんだろう?)そうしてズカズカと遠慮もなしに私の部屋に入ってきて、立ちながら大きな鏡の前で睨めっこしている私の後ろに立って鏡越しに私を見た。 「グチャグチャじゃん」 「馨君たちみたいに器用なわけじゃないもん。…久しぶりだし」 「僕が結んであげようか?」 私は鏡越しに馨君を見る。馨君は何時もと同じ悪戯っ子顔で、何時の間にかブラシは彼に奪われている。彼はもう譲る気はないようだ。…それに私が自分で結ぶよりも、馨君に頼んだほうが全然綺麗に出来そうだ。 「じゃあ…お願いします」 「かしこまりました、お姫様」 そう言って馨君は椅子に座る。さっきまで私が座っていた椅子だ。最初は座っていたのだけれど、上手く結べないことに段々苛々してきてとうとう立ち上がって鏡と睨めっこを始めてしまったため、椅子は後ろに後ろにと下がってしまったのだ。うーん?それにしても、椅子に座るってことは私よりも背が低くなって、解かしにくいのではないか?そんな私の疑問も最初から予想済みのように馨君は笑って自分の膝を叩く。 「ほら、栞。座って」 「…座るって、何処に…?」 「勿論僕の膝の上♥」 なんと恐ろしいことを言うのだこの人は。語尾にハートまでつけちゃって。ひ、膝の上だなんて、恥ずかしいよ。なのに馨君は気にした様子もなく、早く早く、と私を急かす。馨君のニッコリ笑顔に負けて、私は仕方なくその膝の上に座る。椅子に座ったのとは違う、なんか変な感じ。馨君は優しい手つきで私の傷んだ髪を解かす。私が自分でやったときは引っかかって痛かったのに、馨君は優しくしてくれるからそんな痛みは微塵とも感じない。寧ろ気持ちいいくらいだ。結い上げられる。 「栞さー、折角髪綺麗なんだから、ちゃんと手入れしないと駄目だよ?」 「うーん…でも、つい忘れちゃうんだよね…」 「なんなら僕が毎晩来てあげようか?夜這いのついでに」 「え、遠慮します!」 「チェーッ」 鏡越しで見える馨君は拗ねたように口を尖らす。こんな顔をする馨君がちょっと可愛い。思わず笑みを浮かべると、馨君が「何笑ってんの?」と聞いてくる。なんでもない、と答えようとした時、また先ほどと同じようにノックなしに扉が開かれる。しかし、今度はちょっと荒めだ。そうして出てきたのは彼の片割れ。 「かーおーるー!!酷いよ、僕を置いてくなんて!」 「あはは、ごめんごめん」 「あー!栞の髪結んでる!ズルイ!僕も結びたい!!」 「だーめ、コレは早い者勝ち」 ベッと軽く舌を出して馨君が言う。光君は本当に悔しそうだ。それから、髪を結い終えた馨君にお礼を言ってから立ち上がろうとしたら、途端に腰に手を回されて再び膝上に後ろからダイブ。光君も突然のことでギョッとしている。 「なっ!」 「かかかおるくん!?」 勝ち誇ったように笑う馨君。なんだか彼は、私と光君よりも一枚も二枚も上手です。 髪結い [2006/12/15] |