「あぁ、何処へ行ったのだ俺の可愛いクマさんのシャーペン!!」 「旅にでも出たんだろう。俺は先に行っているからな」 「そんなっ!鏡夜も一緒に探してはくれないのか!?」 「………部活には遅れるなよ。」 鏡夜はそう言って教室を出て行く。親友なのに、冷たいぞ、鏡夜!教室には既に誰も居ない。居たのならきっと「環様、お手伝いいたしましょうか?」と話しかけてくれる姫たちがいるはずなのだが(といってもそんな労働を女性にさせるわけにもいかないので断るのだが)…俺は今一人ぼっちだ。ああ、なんとも哀しき運命!誰も俺の大事な大事なクマさんのシャーペンのことなんか気にかけてくれないのだ!俺はしぶしぶ教室を出て(教室は探し回ったが結局出てこなかった)、廊下にしゃがみこんで探す。広い廊下、あまりにも広いので寧ろ物が落ちているとすぐに判ると思ったのだが、案外見当たらない。そうして暫く経つと、俺の前に一人の女子生徒が現れオドオドと話しかけてきた。 「た、環…先輩?」 見覚えが、ある。記憶を奥のほうから引っ張り出すと、見事該当する名前がある。彼女は3ヶ月ほど前にれんげ姫と共にホスト部へ訪問し、俺を指名した女性の一人だ。顔を真っ赤にして、手が震えている。ああ、そういえばホスト部へ来た時もこんな感じだったな。それほどまでに緊張するほど、俺は偉大な存在ということか?いやはや、自分ながら恐ろしいぞ。 「おや?これはこれは姫。ご機嫌麗しゅう」 「ど、如何されたのですか?こんなところにしゃがみこんで…」 「実は大事なシャーペンを落としてしまって…探しているところなんだ」 それを聞いて優しい優しい姫は、「私も一緒に探します」と言ってくれたのだが。彼女の手を、そして自分たちには大した額ではないがハルヒにとってはかなり高額な制服を、廊下に触らせるわけにもいかないので俺は彼女の手を取り甲に口付けて言った。そもそも紳士たるもの、女性に廊下に四つん這いにさせて物探しを手伝ってもらうなどと言語道断だ。 「いやいや、姫の綺麗な手をこんなことに労働させるわけにもいかない」 「で、でも私…少しでも良いから先輩の役に立ちたいんです」 俺がそういっても動じずに(いや、少し動じたか)、彼女は手伝いたいとはっきり言った。…彼女の好意を振り払うのも、紳士としては許されまじき行為だな、と思い「それでは、お願いしてもよろしいでしょうか?姫」と微笑むと、案の定、彼女は少し顔を染めてそれから「はい、勿論です」と笑って答えてくれた。それから彼女にどんなシャーペンかと聞かれたので、そのクマさんの特徴を述べると、彼女は「少し、据わった眼をしたクマ……?」と少し考えるような格好をする。少し時間が経つと彼女は急いで自分の鞄の中を漁り、そして取り出したものは、 「もしかして、これのことでしょうか?」 俺の、クマさんのシャーペン!! 「おぉ、それだ!有難う、感謝する!姫!」 あぁ、逢いたかったよ俺の可愛い可愛いクマさんのシャーペン!君は我が娘ハルヒの次に大切な愛されるべきキャラクター!2時間ぶりの再会だ!感動の再開に身を寄せていると、気付けば彼女は「それでは」と手を振り、優雅に歩いて帰っていく。まだ俺は御礼をしていない。俺は急いで彼女の名前を呼んで、彼女を引き止めた。 「姫!また、ホスト部へ来てくれないか?お礼がしたい」 少し急ぎすぎたせいか、あまり利口とは言えない聞き方だったが、それでも彼女は嬉しそうに喜んで大きな声で、「はい!」と答えてくれた。それから、御嬢様とは思えないような軽い足取りで廊下を歩き、次第に早足となって、最終的には駆け足となり…転んだ。すぐに駆けつけようとしたのだが、彼女は自力でむくっと起き上がり、それからまた変わらない足取りで廊下を歩いていく。そんな彼女と再会する、15分前。 キミが姫なら [2006/12/13] |