「キスしていい?」 「んぅっ!?…げほげほっ」 驚いて飲んでいた紅茶で蒸せてしまった。私にそんな状況に追い込ませた当人は、私の背中を摩ってくれている。お陰で落ち着いたけど、先ほどの言葉が忘れられない。一体突然何を言い出すんだこの人は。当の本人はニコニコしていて、私はさらにたじろいでしまう。聞き間違いであってほしい。そうでないと私はものすごく恥ずかしいというか、なんというか。心臓が持たない。 「ひ、光君?今なんて、」 「だから、キスしていいって聞いたの!」 「(聞き間違いじゃなかった…)」 聞き間違いじゃないと確認すると、顔が熱くなるのが判った。な、んでこんなことを突然言うのだろう。からかっているだけ?ううん、ホスト部の人だからそんな冗談は言わない。言うだけ、期待させるだけ、傷付けてお客が減ることを知ってるから。だとしたら、やっぱり本気?困るよ。だって、私は光君の恋人でもなければ友達でもない。ただ、たまたま何時も指名するはずのハルヒ君がいなかったから光君と話していたってだけでなんでこんなことになるんだろう? ハルヒ君、かぁ……。 ハルヒ君は男の子には勿体無いくらい可愛い。きっと女の子の格好をしたら、絶対可愛い。例えるなら、そう、シンデレラだ。だけど私は、家がお金持ちのお嬢様でも、中身はただの何処にでもいるような1人の女子で、どんなに見た目を綺麗にまとい、素敵なネックレスや指輪、高いドレスなんてものを身につけても、それは身につけているものが綺麗なだけで私は綺麗になんてなれない。うん、なれないんだ。硝子の靴なんてあっても意味がない。ハルヒ君みたいな子じゃないと、意味がない。私はシンデレラにはなれないから。 「…?」 「…ん、なに?」 「もしかして嫌?」 「そんなんじゃないよ!!」 思わずそう全否定してしまった。だって、光君はこんなみすぼらしい私にもしっかり手を指し伸ばしてくれる。そんな人を私は拒否出来ない。ただ、私を見てくれているという嬉しさからだけど。光君は嬉しそうにニカッと笑って、それだけで私はトキめきを憶える。綺麗な顔、私の顔とは大違い。胸がドキドキ。あれ、わ、私如何したんだろう?なんでこんなに顔が熱くてきっと赤くて、胸がドキドキしている。ドキドキで混乱している光君の顔が近づいてきて、チュッと触れるだけのキス。お互い見つめあったままで、私は呆然としていて、光君は悪戯な顔して笑ってる。 「ボーっと可愛い顔してるが悪いんだよ」 「えっ?」 「奪っちゃった〜」 硝子の靴なんてなくても、私はシンデレラになれたんだ。 硝子の靴なんか
いらないよ [2006/12/10] |