「なーにが『あの身長差、ありえなくね!?』だ!あたしだって好きでこんなでかくなったわけじゃねーっつの!」 「、落ち着けって」 「これが落ち着いていられますか!うがああー!」 うがああって、それ女の叫び声じゃないから。俺がそう突っ込んでももうの頭には届かないで、は喋りたいままに喋ってる。はああ、なんで俺っていっつもに掴まっちゃうんだろう。お陰で今じゃあ完全に愚痴係で定着しちゃってるよ。そりゃあさ、ちょっとは憧れたよ。女の子の相談に乗ること。なんかもう、頼られてる男!みたいな感じでかっこよくない?そしてそのままその女の子と恋に落ちちゃったりなんたりして!(え、何?少女趣味?)(そんなの関係ねえー!)とかなんとか期待してたんだけど、だけどだけどの言う相談っていうのは、俺じゃあとてもとても解決できないもので。だって、身長なんて自然の摂理だし。相談というより寧ろ愚痴。はぁ、なんで俺ってこういう位置にいるんだろう。 野球部一小さい田島と女子の中で学年一大きいが付き合い始めたなんてこと判った時は学年中に衝撃が走り回った。そりゃあ、まあそうだろう。田島は四番ってことで有名っていうのもあるし、は陸上部期待のエースで背が高くてカッコイイって女子に人気だし。そんな二人がくっついたとなればかなりの大騒動だ。「えええーさんに彼氏が出来ちゃったの!?」「でもカッコイイからきっと彼氏も背が高い人なんだろうね!」「え、彼氏って田島くん!?そ、それって身長的には如何なの…?」なんて会話も結構多く聞かされる。(逆バージョン、「ええ田島くん彼女出来ちゃったの!?うそー狙ってたのに!」「でも田島くんの彼女だからちっちゃくて可愛いんだろうね」「え、さん?それって身長的に…」というのもある)(くっそーなんで田島のくせにモテるんだ!四番か!?四番だからか!?)普通ならもう女子の成長期は止まって背は伸びない人が多いのだけど、の場合は今もぐんぐんと成長中だ。 「ちっちゃい方が可愛いし短距離としては軽いほうが速く走れるし、あたしだってもっとちっちゃい体に生まれたかったよ!それに田島だって、好きでチビなわけじゃないもんね。だってでっかくならなきゃホームランだって打てないし!」 「まあそれもそーだよね」 「それから聞いてよ水谷ィ!あたしまた身長伸びちゃったんだよ!?あと少しで田島との身長差が15センチになっちゃうんだよ!?」 「いーじゃん、カップルの理想の身長差は15センチから20センチって言うし」 「それが逆だから嫌なの!このペースだとあたし、一年が終わるころには花井も抜かしてるかも…」 その可能性が充分にありうるからちょっと怖いよね!うーん、田島どころか俺よりも背が高くてさらに花井まで越しちゃったらもうなんともいえないかも。大体、こういうことに悩むってわかってたのになんで田島のこと好きになったのかなあ。あー…人を好きになる気持ちなんてそんな理屈じゃあわかんないもんか。そんなものか。 前に田島に「なんでが好きになったのか」と聞いたことがある。「うーん、なんでって言われるとなんでだろーな。最初はさ、なんだこいつでっけーすげー!!って思ったし、皆カッコイイって言ってたから俺もあーんな感じにカッコイイやつになりたいなとかそういう風に思ってたんだけど。本人もカッコイイって言われてまんざらでもなさそうだったんだけど。うん、でもあいつ見た目と違って案外可愛いもんが好きなんだよ、小動物とか。それでこの前俺んちのハムスターとか猫とか見せたらすっげーはしゃいでた。ま、女なんだし当たり前かーとも思ったんだけどさ、俺はてっきりカッコイイもんが好きなんかなーとか勝手に思ってたから意外ですげーびっくりした。それからしのーかとか2組の吉田とか5組の林とかそういう可愛い女の子に憧れてたりしてさー、あーいう風になりたいねって笑ったんだよね!そういうところが、すっげー可愛いって思ったんだよ。なんで好きかって言われると答えられないけど、好きになったのはたぶんそれが最初なんじゃねーかな。でも俺今はの全部が好きだし!あいつ胸もデカイしさ!」…ただののろけになってて最終的には聞くんじゃなかった、と後悔したことがある。たぶん、恋なんてそんなもんだ。ちょっとしたことで相手の印象がよくも悪くも変わって、相手を好きになる切欠なんてそんなもん。理屈じゃない。 「でもさあ、背が高いってのも結構便利なことあるんじゃねーの?」 「そりゃあ、…棚の上のものとか取りやすいし、カッコイイって言われても悪い気はしないけど、」 「ならそれでいいじゃん」 「でもあたしはちっちゃいのに憧れるの!田島と並んでも何も言われないくらいに!」 「じゃあせめて並んでも可笑しくない程度に背の高いやつ好きになればよかったのに」 「…理屈じゃないもん」 「(あ、今俺が考えてたのと同じこと言った)」 「……皆はさあたしのことよくカッコイイカッコイイって言ってるけど、あたしだって女だもん、可愛いとか言われたかったわけよ。でもさあ田島はさー田島だけが可愛いとかなんとかそういう風に言ってくれちゃったもんだから、あああーもうあたしって単純!って自己嫌悪に落ちたけどもうしょうがないよ好きになっちゃったもんはなっちゃったんだし!」 「だったらもう気にすることないじゃん、田島に言ってもらえたんならさー(てゆーかなにこれのろけ?)」 愚痴ならまだしものろけなら俺帰りたーい!(てゆーかこいつら多分背の高さ以外は似た者同士だって!)田島のラブラブな話なんて聞きたくないもんね!こいつ身長が如何とか言って実は自慢したいだけなんじゃね!?うっぜー!なんだかんだでバカップルのくせにぃぃ!!俺だって彼女ほしいよ!ああああーくそ!「でも女は気にするもんなんだよ!あー…なんであたしこんなにでかいんだろう…」ってええええなんか行き成り涙目になってる!?こんなとこ田島に見られたら俺が泣かしてるとか思われる!行き成り深刻とか俺シリアスとか似合わないからあああ誰かーヘルプヘルプヘルプ!!ガラッ、あドアが開い、って田島ああああ!? 「あー!水谷何泣かしてんだよ!」 「え、ちょっと田島誤解!」 「もんどーむよー!」 あーもうなんで俺ってこんな役割なんだろう!(そしてガツン、ボキ、ゴッツーンという音と共に俺は田島に倒されてしまうのである!) 距
離 感 ゼロメートル [2009/12/28] |