目の前でにやにやと笑うはオレにとっちゃほんとにどうでもいい話をさも「重要でとてもとても楽しい話なんです」とでも言うようにキラキラと撒き散らす。もう毎日のように花を散らしまわって、ウザいのなんのって、…そりゃあまあうぜーよ、ほんとのところ言うとうぜーよ。本当のところも何も本音は暴露しまくってるけど。「ねえねえ聞いてよ、榛名!」お前の話なんか聞くよりもオレは今すぐ着替えたい。部活の後のユニフォームって、当たり前だけど汗臭くて濡れてて、部活中はいいけど終わった後は気になって仕方がないんだよ。だからさっさと着替えたい、肩とか冷やすと困るし。なのに目の前のは空気も読まずに話し続ける。あー…こいつの話を聞いてやってるオレって優しい。チョーエライ。


「昨日ね、準太と久々にデートしたの!一週間ぶりだよ、一週間ぶり!」
「週一で逢えりゃ十分だろーが」
「そうでもないよー。私は毎日でも逢いたいくらいだし、…準太もそう言ってくれたし」
「うぜえ」
「やーん、榛名ってば。彼女いないからって僻み?うわーごめんね、いろいろと自慢みたいになっちゃって!」
「(こいつまじうぜええ!)」


自慢みたいになっちゃって、って言葉は言ってる時点で自慢だろーが!何回何を言っても全く動じないは実にやっかいだ。秋丸も「榛名と同じくらい扱いづらいよ」と言っていた(ってちょっと待て!オレはこいつと同一扱いか!?)。


「でもねえ、逢うとなんか悲しくなっちゃうのよねぇ。なんで準太は同じ学校じゃないんだろーって」
「へえー」
「だってね、同じ学校だったら毎日逢えるし、昼休みに私の作ったお弁当であーんとかしたりして、あと放課後には部活終わるまで待ってたりして、それで帰りは一緒に手をつないで帰るんだよ!」
「へえー」
「ちょっと榛名。ちゃんと聞いてる?」
「聞いてる聞いてる」
「聞いてるようには見えないんだけどー…ま、いっか。それでね、あとは…あ!そうそう、先生から大量のプリント持たされてふらふら歩いてたら、階段で滑り落ちちゃって、ぶつかっちゃった彼と恋に落ちるとか!あとは試験の時に一目ぼれした人と入学式で偶然再会して、しかも同じクラスだとか!そういうの、期待してるんだけどねえ」
「お前それ、話の趣旨変わってねえか?恋に落ちるも何もお前らつきあってんだろ。」
「嫌だな、話の趣旨は全く変わってません!準太が同じ学校だったらこういうシチュで慣れ合うのもありかなって思ってみただけだよ」
「つーかさ、その展開あり得ねえだろさっきから。お前少女漫画の読みすぎ」
「やだなー、結構あるんだよこういうことって」


それでは今言ったことを想像(もとい妄想)したのか、キャッと言いながら赤く染まった頬に両手をあてている。こいつマジうぜえ、つーかキモイ、ほんとにとにかくうぜえ、どうにかしろよ秋丸。っていうかこういうのろけの聞き役って普通秋丸じゃね?なんでオレにすんだよ。っていうか…えっと、その「準太」ってやつ(名前しかわかんねえけど)もなんでこいつを好きになったんだ、こんなうぜーの。疑問だ。世の中って不思議なでき方をしている。とりあえずオレは早く着替えたい、そろそろ着替えないとほんと肩冷える。汗で濡れた服を着たままだと確実に冷える。今はなんとかタオルで拭き取っているがそれも限界があるわけだ、だから早く終わらせてとっとといつもどおりにトレーニングルームへ行きたい。


「っていうか、そこまで言うならお前が転校すりゃいいだろ。そしたらウザいのいなくなってお前も彼氏とラブラブで一石二鳥」
「ウザいのって何ウザいのって。私そんなにウザくないよ、ウザキャラじゃないよ。っていうかむしろウザいの榛名じゃん、いつも何様俺様榛名様じゃん。まあ漫画だったらモテるけどね、ドSキャラってなんか人気あるし。でも現実だとウザいよね、俺様的存在キャラって」
「言いたい放題だな、てめえ。いつも大人しくのろけ話聞いてやってんの誰だと思ってんだよ!てめえこそ何様だ?」
「やだやだ、これだから短気な人は。すぐ眉間に皺寄せちゃってさー。それにのろけじゃないよ、ただ私の彼氏がかっこいいって話してるだけだよ」
「それがのろけなんだろ!!」


大体さ、彼氏とラブラブな話を独り身のやつに聞かせて何が楽しいんだよ。聞いてるこっちは辛いんだよ、オレだって彼女が欲しいんだよ畜生!そりゃあ宮下先輩には大河先輩がいるし、大河先輩はちょっとムカつくけど結構いい先輩だし、っていうか二人ともなんだかんだで上手くいってるから無理に奪おうとか全然思わないし。だからと言って他の女に目をつけてもなんかほどじゃないけどウザいのばっかだし。とりあえず、プロになるためには色恋沙汰にうつつを抜かしちゃダメなんだとか言って自分慰めたりしてるけど、ぶっちゃけた所欲しいよほんと。ええ欲しいよ欲しいですよ悪いか!モテないわけじゃねーけど、しっくりくるやつがいないんだ。うんそうだ、オレに合うタイプがいない、だから彼女ができないんだ、オレが悪いわけじゃない。


「でもさー、あれだよね。榛名もパッと見、顔だけはモテそうなタイプなのにね。フェンスの向こうで『キャー!榛名くーん!』とか言われて調子に乗ってるタイプに見えるのに、意外とフェンスの向こうに人はいないよね」
「お前のオレのイメージっていったいどういうもんなんだよ。つーかそんなこと現実にはない、あったらキモイ」
「そう?榛名が気になった子とお喋りしてたら榛名ファンの子が『ちょっとあんた何様のつもりなのよ』って校舎裏に呼び出したりとか私は期待してるんだけど…」
「ねーよ!」


こいつの思考回路は少女漫画で出来ているのだろうか。とりあえず自分の理想をこっちに押し付けるのはやめてほしい。それからこいつはあ、という声とともに両手を叩いた(その仕草すらも漫画の受け売りくさい)。「そうそう、準太と同じ学校でそういうことしたいなら転校しろって話だったよね」そう言われて、は?と思ったがすぐに思い出した。話をいきなり戻すなよなー、なんて思いながらこいつの話に耳を傾けるとこいつは今日で一番ニヤついた顔をした。


「だって、遠距離恋愛って燃えない?相手に逢えなくて、相手が浮気してないか心配になったり気持ちが覚めてるんじゃないかって不安になったり、それで自分の気持ちは大きくなったり。時には他の人に流されかけたりしてさあっ。それでたまーに逢ったりすると余計にきゅんきゅんしちゃうの。それで別れる時には名残惜しくなったりしてね!そういうのって、燃えない?」


心底こいつはもうダメだと思った。






脳内ワンダー






ハートフル




[2008/09/23]