「ゆーと、あたし性転換手術がしたい…」
「ぶぶーっ!!」




行き成りのの発言に俺は飲んでいたお茶を盛大に吹いた。嫌だなあ汚いなあなんては言ってるけれど、一体誰のせいだよ!!と言ってやりたい。まあのそういうわがままなところと突拍子のないところはいつものことなので流しておくとしよう。




「また篠岡関係?」
「そう。滅茶苦茶可愛いあたしの千代!」
「(いつから篠岡はのものになったんだ)」




は篠岡が好きだ。あ、いや好きっつっても友情的な友愛的なものなのだけれど。まあもっと正確に言えば、友情の延長線みたいな感じかな。意地でも恋愛感情ではないらしいのだけど、まあとりあえずは篠岡が大好きだ。篠岡に近づく男は許さない。野球部はまあ部活だからしょうがないということで近づくことは許してもらえるのだけれど、部活関係以外で話しかけたらそりゃあもうキレる騒ぐ暴れるの三拍子。…いやそれはまだマシなほうか。機嫌が悪い時は無言で睨むものだからもう相当意地が悪いというか性質が悪いというか。以前に、廊下でたまたますれ違った際にかるーく挨拶したらにらまれたしね、しかも篠岡に気付かれないように。それから篠岡が少し離れたところではそりゃあもう女にしてはひくーい声で「部活以外のことでは千代に近づかないでって言ったでしょ」の一言。あれは効いた、つーか女子って怖い。(ちなみにその後篠岡の元へ戻っていき、そりゃあもういい笑顔で笑ってました)部屋には篠岡とのツーショット写真も飾ってあるらしい。兎に角、の篠岡への愛は深い。深いけれどあくまで友情。こんな友情って、有りなのか?と俺は思っちゃうんだけどまあ本人もそう言ってることだからよしとしよう。




「あたしさ、ずーっと考えてたんだけど、あたしがいくら千代を男どもから守っても、いつかは千代にだって好きな人は出来るわけでしょ?」
「まぁ、そういう日は来るだろーな」
「そりゃあさ、千代に好きな人が出来たんだったらあたしは死ぬほど応援するよ。そいつに取られちゃっても千代が幸せってんなら全然構わない。だけどそいつが千代を振ったりなんかしたらって思うと…もう腸が煮えくり返るくらいムカつく!!そいつの毛根を全部毟ってやりたいくらいだね!」
「そ、それはちょっと…(可哀相すぎますけどサン!)」
「だからさ、性転換してイケメンになって、いっそ千代を誘惑しちゃおうかな♥って思って!そしたら、誰かに取られるってヤキモチの心配も振られる心配もなくなって、ハッピーエンドかなって!」




……。唖然ていうか呆然。つーかなんでそういう思考に飛ぶんだ。(しかもイケメンになること前提かよ)(つーか性転換手術しても顔は変わらないって、ちょっと男っぽくなるだけで)俺的にはそれ、篠岡は喜ばないと思うんだけど。はいつだって篠岡に近づく男を退治してきたわけだけど、それって篠岡にとってはいいことなのだろうか。もしかしたらが追い払ったやつらの中には篠岡の好きな人がいて、でもは気付かれないように追い払っているからいつのまにか篠岡から離れていて…なんてこともあるんじゃないの?だっていくら相手を思って出た行動でも相手にとっては余計なお世話だったりすることだってあるし、迷惑だってこともある。はそういう人の気持ちに鈍感だからなあ。うーん、これって篠岡のためにものためにも、ちゃんと言ってやった方がいいんじゃないのか?(いや、でもが素直に俺の言葉を聞き入れてくれるかわからないな)




「でも、が男になったからって篠岡が惚れるかどうかなんてわかんないよね」
「そりゃあそうだけど…そこは、頑張って誘惑するの!」




正直、の愛は重いと思う。友達相手にこれだけ独占欲が強ければ、たぶん彼氏とか出来たとき大変なんだろーなーなんて思っちゃうくらい。束縛も強そう。とゆーか篠岡に対してすごい可哀相なイメージが出てきちゃったんだけど!ああやっぱりちゃんと言ってやった方がいいのかな。俺の言葉聞き入れてくれるのかな?「阿部にね、」が少し言葉を詰まらせながら言い出した。




「変だろって言われたんだよね」
「…」
「お前の篠岡に対する執着は異常だとかなんとか。べつに、あたしはいいんだけどさあ、言われなれてるし。…中学の時さあ、あたし今より千代にべったりだったからレズだーなんてからかわれたことがあったでしょ?あれは、あたしの行動の所為だし、あたしとしては自業自得なんだけどその所為で千代まで変態扱いされてさ、それ思い出しちゃってさー、阿部のばかやろー」
「…うん」
「勇人もあたしのことレズだと思う?あたしは、ただ千代が大好きなだけなんだよね。千代を傷付けるやつは死んでも許さないし千代を守るためならなんでもする」
「俺は、それでも。ちゃんと篠岡のこと考えてやった方がいいと思うよ」
「…考えてるよ。千代は今好きな人いるのかなとか。あたし邪魔じゃないかなとか。…でも、千代はあたしのせいで千代が変態扱いされた時も、ずっと傍にいてくれた。優しくしてくれた。だからあたしは断言できる。あたしは、邪魔じゃないの。あたしがいくら隠したって、千代にはあたしの行動なんかお見通しなんだよ」




長年の幼馴染というものをやっているけれど、その辺は初耳だ。なんていうか、女の友情ってすごい。いや女のというより寧ろと篠岡の、か。やっぱり同性同士ってこともあるのか幼馴染の俺なんかより篠岡の方がのことを知り尽くしているような気がする。そんな気になるのはたぶん、の話し方の所為でもあるけど。俺が思っていたほどは人の感情とやらに鈍感ではなく、案外必死に考えた上での行動だった。「だからね、性転換しても絶対千代はあたしを軽蔑しないし。あたしのことわかって傍に置いてくれるんだよ」…がさっき言ったことが全て本当なら、きっとそうだ。篠岡ならそうする。の言いたいことは少し突飛が過ぎているけれど、判る。それを聞くと女の友情って案外そんなねちっこいもんじゃなくて綺麗なものかもしれないななんて考え出したりして。だけど、




「だからね、あたしは男になって千代と結婚するの。あたしたちの友情は不滅なの!」




果たしてのそれは友情なんだろうか、とやっぱり俺は疑ってしまうのである。







友愛的対象


オペレーション




「それでさ、手術にはどれくらいお金必要だと思う?あたしん家じゃキツイかもしれないんだよね」
「その前にまずその話を親にしろよ、それから篠岡にも」
「やだよ、反対されるし」
「(あたりまえだ)」




[2008/02/01]