「慎吾先輩、サディストになるためには如何すればいいんですか?」




可愛い子に上目遣いされるというのはとてもとても嬉しい状況だけれども、その質問はちょっといただけないよ、サン。


我が桐青野球部のマネージャーのは、利央の彼女だったりする。最初聞いた時はそりゃあもう驚きもんだったけど、まあ今じゃああいつらのラブラブぶりは慣れたものだ、利央からのスキンシップとかも割りと多く見るし。ただ可哀相なのはのことが好きだったやつらだ。は顔とか行動とか可愛いところが多いし。(何もないところで転んだりして男心くすぐるんだよなァ)そんでもって、そんなが利央と付き合い始めて、そりゃあすごい状態だった。オレたち三年組は「おー利央よかったな」「お前等仲良かったもんなー」とか結構大人な反応。でも二年と一年組は「くぉら利央。テメーなにちゃっかりと付き合っちゃったりしてんだ」「俺が狙ってたのに、羨ましいぞ利央!」みたいに悔しがったりからかったりと反応は様々で。(まあ二年と一年はこいつに惚れてるやつも多かったしなァ)そんなこんなで野球部公認カップルになったのである。


そしてそんな風にモテモテで可愛いサンですが、残念ながら彼女は極度のマゾだったのです。




「慎吾せんぱいー、わたし如何したらいいんですか?利央くんもわたしも虐げられることに快感を憶えるんです、これじゃあわたしたちどっちも絶頂までイけないんですよー」
…頼むからその顔でそういうこと言うな。オレも泣くぞ」




つーか、がこんなこと言ってるって知ったら迅あたりなんかはショックで倒れるんじゃねーかとすら考えてしまう。言っておくが、利央もも自ら自分がMであると主張したわけじゃない。(ついでに言えば、利央はこいつがMだとは知らない)(そして自分がMであることを知られていることも知らない)以前、ちょっとからかってのほっぺたをギューっと引っ張ってみたら本人は「痛い」とちょっぴり泣きながらも顔がちょっと嬉しそうに笑って(ニヤけて)いたのがたぶん始まり。そのときはあんまり深くは考えなかったものの、その後…まあ色々あってオレにはそーゆーことがバレたんだよ。(色々というのはご想像にお任せします)それから、二人が彼氏彼女という関係になってから、の初めての利央家訪問にて。彼女はなんと、隠してあった利央秘蔵のAVを見つけてしまったらしく、その中身をちょっと覗いてみたらSM系で女が鞭もって男を虐げるというなんとも在り来たりで、それでも純粋な女子高生にはちょっとドギツイものだったそうで、そんなこんなで利央がそーゆー属性だということがわかった、らしい。そしては、自分も利央も同じ属性ということでお互いの相性が悪いと判断した。だって虐げられることで快感を憶える体質の二人がヤったところで、相手を虐げることなんか出来ないし優しいだけじゃ物足りないだろう、とのことである。そうして彼女の至った結論は、「サディストになるには如何したらいいんですか?」だそうだ。


不思議なことに人間って必ずSかMのどっちかにわかれる性質を持っている(と、オレは考えた)。でもほとんどの人がそれを曖昧な形で処理して、どちらでもないだとか言ったり、どちらかであってもそれほど強いものじゃない。だから男女間でSとMの関係が成り立たないことだってあるだろう、例として弱Sと弱Sがくっつくことだってある。それでも特に問題はない、基本的には男が攻めればいいだけの話なんだから。ただ二人の場合は、強Mと強Mがくっついてしまっただけということ、それでも基本は男が押し倒すことに相場は決まっているのだから利央がこいつを襲ってやればいい話だろう。だから特に気にする必要はないと思うのだけど、それを述べると「…世の中には体の相性が悪いからといって別れるカップルもいるんですよ」となんとも説得力のある言葉を浴びせられてしまった。




「わたし、本当に困ってるんです。だって、…わ、わたしがマゾヒストなんて利央くんにバレたら、たぶん一生出来ないじゃないですか!…ううん、最悪の場合、嫌われちゃうかも」
「いや、それはないない(明らかに溺愛してるだろ)」
「そんなのわかんないですよ!人間、くだらないことでふとした瞬間に冷めることだってあるんです。わたし、…捨てられたらどーしよう!!」
「あのなァ、。人間、SかMかで全部が決まるわけじゃねェだろ?てゆーかお前らお互いがそういうタイプだって知らないで好きだっつって付き合い始めたんだろーが」
「そ、うですけど…」
「じゃあ相手が自分と体質の相性が悪いからってお前は嫌いになるの?それで、利央もそんなことでを嫌うような酷いやつだとか思ってんの?」
「お、思ってません!嫌いになんてなりません!」
「じゃあそれでいいだろ」




でも、やっぱり、と考えつつ独り言を呟く。あーなんかやっぱり可愛いなこいつ、利央の彼女にしとくのは勿体ねぇーなー。「なーオレにしてみない?オレどっちかっつーとSだし」「しーんーごーさーん?何人の彼女ナンパしちゃってんスかぁ!!」げ、なんてタイミングの悪いやつ。




、慎吾さんのいい人ニコニコスマイルは、下心丸見えのニヤニヤ変態顔なんだから近づいちゃダメ!」
「利央ー、そりゃないだろ」
「ほんとのことを言ったまでっス!」




もうちょっとで狼に変身しそうだったでしょ、とでも言いたげな目をしてからの手を握って帰ろうとする利央。は「じゃあ慎吾先輩、有難うございました」と頭を下げて、利央と並んで歩いていく。うーん、流石に下心丸見えのニヤニヤ変態顔は傷つくな(しかもは否定してくれなかったし)、どちらかというとS属性のオレは最後の最後に、強いMの性質を持つ二人に向かって一言告げてやる。




「利央ー!今度SMのAV貸せよー!」








  M
        ost


  M
     agical


M
 asochism




その言葉を聞いた二人の顔は真っ赤で、悔しそうで酷いとかたぶんそんなことを考えているような顔だったけれども、事情を全て知っている俺にはやっぱり嬉しそうなものにしか見えないのである。




[2007/12/14]