「ハルヒくんの作るクッキーはなんでこんなに美味しいのでしょう。私の作るクッキーとはまるで、月とすっぽん、雪と墨、雲泥の差だわ」




私もハルヒくんのように、料理の1つでもし出来るようになりたい思ってみたのだけれど。なんで同じ材料で同じ作り方をしても、こんなに差が出てしまうのでしょう。ハルヒくんの作ったクッキーは綺麗な小麦色をしていて、形も崩れてなんていなくて、ああ美味しそう。私も食べてしまいたい。そうしてもう一度見るは私のクッキー。焦げていて真っ黒け、元は丸い形のはずだったのに欠けて欠けて欠けて欠けて明らかに丸の原型は留めていない。ああ、材料たちが可哀相。誰にも食べられることなく捨てられていくのね。私の手にかかることがなければ、もっと美味しく作られてたらふく誰かのお腹の中に詰め込まれて、幸せなままに消化されたはずなのにね。


本当は、ただ料理がしたいだけじゃなくて、上手く出来たらハルヒくんにも食べて欲しかったのだけれど。(だって、好きな人に食べてもらいたいと思うのは女の子の願望じゃない?)これじゃあ無理ね、ただお腹を壊させてしまうだけ。はあ、と私が落胆している横で、ハルヒくんは有ろう事か無残なクッキーたちに手を伸ばし一欠けらを摘んでパクッとその小さくて可愛らしい口の中に放り込んだ。は、は、ハルヒくん?




「そ、そんなもの食べたら、お腹壊しますわよ!?」
「…うん、でもまあ、最初はこんなもんだよ」




私の制止の声も聴かないで、そんなことをぶつぶつ言ってるハルヒくん。ああ、私のクッキーが原因でハルヒくんがお腹を壊して明日学校を休んだら、学校へ行く意味がなくなってしまうじゃないの。(そもそも学校は勉強するために来る場所なのだけれど)(私にとってはホスト部へ行くために学校へ通っているようなものだ)


でもハルヒくんは不味そうな表情なんてしないで、私に笑いかけてくれるのだ。




「…ハルヒくん?」
「また、一緒にお菓子作りましょうね」




悩殺極上笑顔にやられて、明日は私の方が学校を休んでしまいそう。








けたクッキー)
















「はい、環。あーん」




ゼリーをスプーンで一口分すくって環の口元へ運ぶ。掛け声をかければ素直に口を開ける環。なんて馬鹿で可愛いの。普段のナルシストで気障な台詞を振りまいている王子様とは大違い。あたしはどちらかというと馬鹿な環のほうが好きなんだけど。


だって、悪戯したくなるじゃない?






「ばぁか」
「んむっ!?」




環の口へ運ばれるはずだったスプーンは、今あたしの口の中に。環の口の中にはスプーンを運ばれる予定だったものだから、口を閉じる時にカチッと歯と歯がぶつかり合う音がした。驚いている環を見てあたしはクスクス笑いを漏らす。このあたしが、素直に環の口の中にゼリーを運ぶわけないじゃないの。なのに素直に口を開けてた環の顔を思い出せば思い出すほど、間抜けすぎて楽しい。「酷いぞ」なんて怒っていても意味はないんだから。何やら文句を言い続けている煩い環の口の中に、今度こそゼリー入りのスプーンを突っ込んでみせた。行き成りだったのでつっかえそうになったみたいだけど、ゼリーはつるんってよく滑るから蒸せることなく喉を通った(っぽい)。




「こら!喉につっかえそうになったではないか!」
「ゼリーだから大丈夫よ。つるっと入ったでしょう?」
「それも、そうだが…いや、そういうことではない!人をからかって遊ぶなと言っているんだ」
「あら、環はあたしと間接チューが嫌なの?」
「なっ…か、かん、せつ…っ」




普段は気障な台詞をポロポロその口から出すというのに、こうなると弱いのね。完全に王子の顔は崩されたわ。ま、そんなところがまた愛しいのだけど。真っ赤になって固まっている環を余所に、あたしはもう一度口の中にゼリーを運んだ。二度目の間接チューである。








されたゼリー)
















「鏡夜って、薄荷キャンディー平気よね?」




知人に貰った、飴が入った缶。缶の中には、苺やら林檎、メロンやレモンなどなど色んな味やバリエーションがある飴玉が沢山入っていて、中々美味しいと食べていたのだけれど。私は薄荷をを避けて食べていたのでいつのまにか残っているのが薄荷のみになってしまったのだ。薄荷は苦手である。喉にスーっとする感覚が駄目だ。あれは大人の味である。子供の私にはまだ早いということだ。




「甘いものは好きじゃないことくらい、お前も知っているだろう」
「薄荷はそれほど甘くないでしょう?つべこべ言わず食べなさい」




余ってしまった薄荷味の飴は結構な量である。それを全部食えというのは酷であろうが(しかも全部同じ味だから飽きるし)、普段鏡夜の好きに踊らされているのだからこれくらいの反抗くらいいいだろう。ほらほら、食べなさい。私は目でそう鏡夜に訴えながら、缶に詰め込まれている薄荷飴を押し付ける。鏡夜は少し考えるような仕草をしてから、缶を受け取って蓋を開ける。珍しく素直だ。普段なら皮肉の1つや2つをかますのに。それから缶の中から飴を1つ取り出して食べる―――のではなく、取り出された飴は私の口の中に押し込まれた。「一体何すん」のと言おうとしたけど、口を塞がれて声は途切れる。鏡夜は器用だ。人を操るのにも、その他のことにも、当然今行われている行為にも。味なんて確かめる余裕もなく、私の口の中にあった飴はあっさり鏡夜の元へ移された。口の中に残るは、薄荷のスーッとする感覚。




「まずっ」
「文句を言うな。望み通り食ってやっただろう」
「…いらないからあげたのに、これじゃ意味がないじゃない!」




キスって普通甘いものじゃないの。これじゃあまるで毒薬だわ。








(有キャンディー)
















棒アイスよりもカップアイスの方が好きだ。だってカップなら溶けても零れるとか手がベタベタになるとか心配はないじゃないか。あたしは棒アイスを食べるのがこれ以上ないくらい下手くそだ。上を舐めて、それから溶けてきて零れそうなので下を舐めて、今度は上が溶けて…のくりかえし。アイスは噛み砕こうとすると頭がキーンって痛くなるからあたしはあまり砕きたくない派でもある。(如何でもいいけどアイス舐める仕草ってなんかエロい!)(あたしがやると色気もクソもないんだけど)


そして目の前にある棒アイスは今もあたしの手をベタベタに汚しつつあるのである。




「食べるの下手」
「う、うっさいな!大体、光が悪いんでしょ。棒アイスなんて買ってくるから」
「だからって普通そこまで汚れないでしょ。如何いう食べ方したらそうなるの?」




苦手なんだからしょうがないでしょ。そう言い返してもなんかさらにキツイ言葉で返されるのは予想がついていたので口に出さずにアイスをもう一度舐める。あたしのアイスのほとんどがあたしの手の上でびちょびちょと垂れて、液体があたしの手を通し腕を滴って雫として落ち、地面の色を変えている。光の方はあと少しで食べ終わるといったところで、手は全然濡れてないし汚れてもいない。綺麗に食べられて羨ましい。食べ終わった光はあたしを一瞥してから、棒をゴミ箱に捨てた。それからアイスなんか全くついてないその手であたしの手首を掴んで、あーあという呆れたような声を出す。




「こんなに溶かしちゃってさ、もったいないじゃん」
「金持ちが勿体無いってい…」




言うな、と言おうとしたけれどあたしの声は出ることなく飲み込まれた。ごくん、と唾と共に。掴まれた手首がくすぐったい。やっぱり、さり気なくこの人エロいよ。色気バシバシなだけじゃなくて、てゆーか女のあたしが欲情するって如何よと思いつつ目の前で黙々と作業を進める光を見つめ続ける。パクパクと口を金魚のように動かすことしか出来ない。どうせ光は確信犯なんだろう、ほら笑ってる。




「あれ?真っ赤だよ、如何したの?」
「あ、あんたが手を舐めるからでしょーが!!」








け落ちたアイスクリーム)
















ふうん、これが庶民の食べるお手ごろ価格の板チョコね。案外美味しいかもしれない。そんなことを考えながら板のように平べったいチョコレートを食べていた。ただ、美味しいのだけど板チョコというのは平べったく広がっているので、食べにくい上半分も来ると飽きてくる。普段食べている一口サイズで苺味だったりミルク味だったり、はたまた中にアーモンドが入ってるものとは違うのだ。食べても食べても中々減らない上にずっと同じチョコの味。飽きてくるのも当然である。一応普通の感性を持っている私が飽きたのだから、当然隣にいる飽きっぽい双子の片割れは既に飽きているのだろう。横目で顔を見ると、もう手にチョコを持ったままで口に入れようともしていない。飽きたんだね、完全に。




「あ、馨」
「んー」
「チョコ、ついてるよ」
「え、何処?」




探るように左の頬を触っているのだけど、残念、チョコがついているのは右の頬なのよ。そんな馨に私はそっと左手を伸ばし、指でチョコを拭き取ってやる。チョコのついた指はそのまま私の口の中へ。心なしか、先ほどまで自分が食べていたものより甘い気がする。商品は同じはずなのにね。指についたチョコを舐め取った私に、今度は馨が、クスクス笑うように言った




「ついてるよ、チョコ」
「え、」




何処と聞いて探そうかと思ったのだけど、そんなこともする暇もなく馨の顔が近づいて、ぺロリと私の頬を舐めた。一瞬何が起きたのか判らなくて疑問符を飛ばしている私に、馨は先ほど私が考えた感想と同じことを述べる。「なんか僕が食べたチョコより甘い気がする。同じものなのに」甘いのは、たぶんチョコレートじゃなくて私たちなんじゃない?そんな恥ずかしいこと言えるはずもなく、私は顔を赤くしながらその顔を見られないようにチョコレートを口にする。手の中にある残りのチョコは、上昇してきた私の体温に溶けて落ちてしまいそうだ。








け落ちるチョコレート)
















「ねぇ、もういいの?」
「いらない。てゆーか、よくそんなに食べられるよね…」
「おいしいのにねぇ」




勿体無いとでも言うような顔をしながらパクッとまた一口ケーキをほうばる光邦を見て、あたしはうえっと吐きたくなる気分になった。あたしにはケーキは一切れか二切れで充分お腹一杯にはなるのだ。だけどこの小さくていつもニコニコ笑っていて母性本能がくすぐられるようなあどけない子供のような容姿の光邦はあたしの十倍は甘いものを食べる。大袈裟なんかじゃない。実際、ホール3つは容易いのだから。靖睦の苦労が判るなぁなんて思いながら、まだまだ入りますとでも言うようにケーキを腹の中に次々と収める光邦を、もう用は達して使わないフォークを弄びながら見ていた。ま、そんな風に幸せそうに好きなものを食べる光邦が好きなんだけどね。だけど、




「ちょっと、食べすぎなんじゃないの?」
「そうかなぁ?」
「もうそろそろやめたら?」
「うん、じゃああと一口」




あと一口?あたしはその言葉に首を傾げる。だって、今また1ホール食べ終わったところじゃないの。それとももう1ホールを一口で食おうって言うの?流石の光邦でもそれは無理なんじゃ。光邦は相変わらずの母性本能をくすぐるような顔を段々とあたしに近づけて、ちゅっという子供らしいリップ音と共にそっとあたしの唇と光邦のものを重ねた。軽く触れて離れた後で、あたしはカチャンと持っていたフォークを落とした。ああ、そうだ。光邦は素もあんなだけど、こんな風に計算している面も持っているのだった。あたしは忘れていたから、防衛をすっかり忘れて見事にしてやられた。悔しい、子供相手にしてやられた。光邦はあたしの悔しさを知ってか知らずか相変わらずの好きなものを食べる時の幸せそうな顔で一言。




「ごちそうさまでしたっ」









(ケーキ下中)
















眠い時の崇はある意味最強とも言えよう。普段は寡黙で必要以上喋ることがあまりない崇が、砂糖以上に甘い台詞を吐いて吐いて吐きまくっているものだから、あたしはちょっと苦手である。普段そういうことしないやつがそんなことしたら、普通ときめくでしょう!女子はギャップに弱い。崇はそんな意外性を秘めているのだ。




「うん、だから崇。眠いなら別にあたしが来るまで寝てても良かったんだよ。なんで無理して起きてるかな」




来てすぐ抱き締められるとは思わなかったよ。しかも耳元で苦手な甘くて言葉を降りかけられて、あたしはもう砂糖まみれである。耳元ってくすぐったいからやめてほしいんだけど、以前に言ったら捨てられた子犬のような顔をされたのでもうそれ以上強くはいえなかったのだ。(惚れた弱みです、悪いか!)うう、折角ドーナッツ持ってきたのに、崇とあたしの間にはさまれてるから、つぶれてるかもしれない。滅茶苦茶美味しいって聞いたから、崇と食べようと思って2時間も並んで買ったドーナッツなのに。




「もう、眠たいなら寝なさいよ」
「お前と一緒にいる時間がなくなるだろう?」
「あーもう、起きるまで此処にいてあげるから!」




爽やかな笑顔でそんなこと言わんでください。本当に眩しくてやられそうです。あたしのその言葉に観念したのか、抱き締めていた手を離して、それから腕を掴んで歩き出す。恐らく布団の方へ向かっているのだろう。うん、それにしても何であたしの腕を掴んでいくのかな。せめてドーナッツの入った箱を置かせるくらいはさせてほしいんだけど。なんとなく嫌な予感がして堪らない。布団へ着いて中に入ろうとするけれど、あたしと繋ぐ手は離さない。




「ちょっと、崇」
「なんだ?」
「手、離してくれる?」
「一緒に寝るんじゃないのか」




嫌な予感的中。誰がそんなこと言った。起きるまで此処にいる=一緒に寝るというのは大間違いだよ、崇。ああでもなんか寝る気満々で布団の中に入っていく。あたしも一緒に引き摺り込まれる。むむむ、ドーナッツ、如何しよう。崇に講義しようと顔を上げたが、既に彼は夢の中。目の前の寝顔に眩暈でクラクラ。ああ、ドーナッツ。瞑れたままでお預けね。






「おやすみ、崇」




これもまた、1つの惚れた弱みである。








(砂まみれのドーナッツ)














SweeT



CollectioN





[07/04/29]