その三角柱の物体の端っこをフォークで切り取って、其の侭口の中へと運ぶ。甘い甘い味が広がる。幸せな気分となる。それはどのお店に売られているものよりも断然美味しい、良守のケーキ。 「お、いしい〜っ!!」 「そ、そっか?」 「うんうん!流石良守だね。このチョコレートのスポンジが絶品!大好きっ」 「大好っ…!あ、ケーキか…」 「…?他に何があるの?」 良守の趣味はお菓子作りだ。それもなんていうか趣味を超えたような美味しさで、食べていると有り得ないくらい幸せになるんだ。だから好き。たまに試作品のモノを作ると決まって良守はまず私に持ってきてくれる。それは私にとってはなんとも誇らしいことで、嬉しいことなのだ。だってこんなに美味しいケーキを一番最初に食べさせてもらえるんだよ?これ以上ない幸福だよ。私は良守が好きなわけだし、この特権はとても嬉しい。私だけのもの、私だから、なんて勝手に自惚れてしまうがそれは結局自分の想像でしかないことなので自惚れもたまにはいいだろうという気分にもなる。 「そういえば、本命のケーキは如何?計画進んだ?」 「ああ!でもジジィが邪魔すっからなぁー…」 「なんなら私んちの台所貸そうか?」 「マジっ!?…あ。ごめん、やっぱりいい…」 一瞬キラキラした眼でこっちを見たのに、私の顔を見てすぐに眼を逸らして彼はそう言う。…私がもし時音だったらきっとすぐに「行く!」って返事してくれただろうなぁ。(といっても時音がすんなり台所を貸してくれるわけないのだけど)良守の本命お菓子の家ケーキは、私のためにではなく私のクラスメイトの時音のために作られる。なんでも、昔そういう約束をしたらしいだとか。そんな時音が覚えてもいなさそうな昔の約束を未だに守ろうとしているくらい、良守は時音が好きなのだ。でも私はそんな良守が好き。時音は綺麗だし頭いいし運動神経もいいし優しいから、適わないことなんて知ってるよ。だけど好きって気持ちは止まらない。とりあえず今は味見係としてでいいから、って良守との関係を保とうとしている。私は意地でもそれを保たなければいけない。 「なんで?遠慮なんてしなくてもいいんだよ?」 「いや、するし!」 「私と良守の仲だしいいじゃんっ」 「むむむ無理だって!! 「……なんでよ?」 「そ、それは、その…兎に角、駄目なもんは駄目なんだ!」 「むー……それもそうだよね、良守は時音が好きなんだもん、他の女の子と仲良く出来ないよねぇ?」 良守の慌てようと言い方にムカついて、ついそんなことを言ってしまった。あーあ、私可愛くない!こんなんじゃ好きになってもらえる確率なんて絶無と言っていいくらいだよ。そしたら良守はきょとんとした顔になって(そんな顔でさえ可愛いと思っちゃうよ)、私に聞き返した。 「違うけど?」 「…え?」 「そりゃあ時音はすっげー大事なやつだし、守りたいって思うけど。そういうのとはなんか違う。なんてーんだろなぁ…」 「(そういうのを好きって言うんじゃないの!馬鹿!)」 ああ、少し期待した私って馬鹿。撃沈。でも絶対に口には出さない。だって良守は自分の中にある感情の名前に気付いていない。それを易々と教えてあげるほど私は優しくなんてない。諦めてるわけじゃ、ないもの。良守は未だにその感情の名前を見つけられなくて、「うーん」と悩んでいる。そんな姿も可愛い。好きだなぁ。そう思うとさっきまで腹立たしく嫉妬していた自分が非常に情けなくなってきた。ああ、なんて馬鹿なことしてしまったんだろう。 「良守、ごめんね。私の方が年上なのに大人気なかったね」 「べ、…っつに年上とか関係ねぇじゃんっ!オレとお前の仲だろ!?」 「あはは、そうだね。じゃあ、やっぱりお爺さんの邪魔が入らないように私の家で作ろう?」 「それは…っ」 「私も設計とか、考えるし…ね?」 私がそう言うと良守は何故か顔を真っ赤に染め上げて、コクコクと頷いた。…如何したんだろう?まぁいいや、とりあえず今は味見係でお菓子仲間でも。そうして甘くて美味しい良守特製ケーキを再び口に運んだ。 スイート
スイート チョコレート 「「(何時になったら気付いてくれるんだろう?)」」 [2006/12/30] |