中庭で待っている女子生徒。あれ、なんて名前だっけ?大して興味もない人だから忘れちゃった。顔は、…うん、悪くない。髪型もちゃんと自分に似合うものがわかっている。まぁ、今まで告白してきた人たちよりは多少マシかな。そんなことを思いながら僕はその子に近づいた。




「あ、か、馨君、」
「この手紙くれたの君?」
「は、はい…。それで、あの、…その、…えっと…」


「悪いんだけど、僕光なんだよね」




そう言うとその子は眼を丸くした。それは他の子と同じ反応かな。僕はその子のそんな様子を無視して話を進める。そうだ、重要なのはこれからだ。これはゲーム。どっちが光くんでしょうかゲーム。とてつもなくつまらない退屈なゲームだ。僕らを見分けられる人なんて、きっとこの世の中にはいないんだから。この世界には僕らを見分ける人なんて僕らしかいないんだから。それだったらいっそ、僕らは僕らの世界を築いていけばいい。こんなゲーム、無駄なだけ。それなのにゲームに挑戦してくる女子たちは、馬鹿だ。




「けどさぁ、馨好きなヤツいるみたいなんだよね」
「そ、そう…なんだ」
「だから、僕じゃ駄目?」




その子を壁に追い詰めて聞くと、その子はまた眼を丸くする。同じことばっかり。他の驚き方は出来ないのか。つまらないやつだ。




「僕、前から君のこと気になってたんだよね。僕じゃ駄目かな?」




僕の言葉にその子は顔を徐々に赤くして、それから俯いた。こうなるともうこの先の言葉は予測できるかな。当然何時もの通り「光君さえ良ければ」とでも言って、それから草陰に隠れている光が出てくる、と。何の変化もない、いつもどおりの、つまらなくて退屈なゲー…




「それじゃあ、駄目なの」
「…え?」




…ムだったはずなのに、その子は予想も出来ない言葉を漏らす。今、なんて?




「私は馨君が好きなの」
「………」
「…見分けることすら出来ないけど、好きだって思うのは馨君だから光君じゃ駄目なの。だから、ごめんなさい」




その子は丁寧にお辞儀をして、顔を上げてニコリと綺麗に笑う。いや、綺麗なんかじゃない。顔は整っているほうだけど、綺麗なんかじゃない、僕は認めない。よく判らない感情が僕の中を支配している隙に、その子は今日の告白を諦めたらしくそのまま歩き出す。




「今度は間違えないように気をつけるから、本当にごめんね」




どうやら日を改めて来るらしい。出来れば来ないで欲しい。僕の心を掻き乱さないで欲しい。だけどそんな僕の中で起こっていることはその子には到底理解出来ないだろうし、光以外の人に僕の心がわかるなんて思えない。だって、そんなの可笑しいよ!見分けることすら出来ないくせに、なんで僕を好きだとか言うんだ。見分けられないんなら、好きだと思ったのは光かもしれないじゃないか!如何して僕なんだ。見分けられないのに好きだなんて言わないでよ、僕の心を乱さないで。僕らの世界には僕らだけいればいい。寂しいけれど、光がいれば寂しくない。そうして小さくなっていくその子の背中をボーっと見ていた僕のところへ光は駆け寄って、寂しくないように手をそっと握った。だけど寂しさは紛れない。








僕の中で、何かが弾け割れた日。










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[2006/12/10]