思い切り息を吸い、吐くと白い気体が私の口から溢れ出てくる。周りは真っ暗で、私の大好きな夕陽も既に落ちていて、明かりは電灯くらいしかなかった。でも、今トナリには大好きないっちゃんがいて、私はきっとそれだけで幸せになれる。大好きな夕陽の代わりになんてならない、別のオレンジ。自然に笑いが込み上げて、ふと声を漏らすと「何笑ってんだよ」とぶっきらぼうな言葉が降って来る。




「んーん。なんでもない。…寒いね」
「冬、だからな」




白い息は絶え間なく出続けている。冷たい風が私の髪を撫でて、剥き出しになっている耳や手を冷やす。冷えすぎてちょっと痛いかも。するといっちゃんは私の心理が手にとって判るように無造作にポケットに手を突っ込んで、また出す。その手に握られていたのは、




「カイロッ!」
「おら、寒いんだろ?」
「すごいよいっちゃんっ。なんで判ったの!?」
「バーカ。お前が判りやすすぎるんだよ」
「えへへ、有難う」




暖かい。冷たくなった手をほのかに包み込む暖かさ。だけど、今度吹いた強くて冷たい風にカイロの暖かさは負けてしまった。カイロは暖かいはずなのに、身体全体が寒くて寒くて冷たくて、カイロの意味なんてもう成さない。あーあ、折角いっちゃんが私に、くれたのに。いっちゃんが私に。




「えへへ…」
「…気味悪ぃな」
「いっちゃん酷いー。乙女の笑いを気味悪いなんてっ!」
「はいはい」




いっちゃんがくれたもの、それだけで意味を成すカイロ。いっちゃんがくれたものだから。例えカイロとしての意味は成さなくても、いっちゃんがくれたものとしての意味は成しているよ。大好きないっちゃんから貰ったもの、嬉しくて暖かいや。でも、やっぱり身体的には寒い。………あ、そうだ。






「な、何だ…?」
「こっちの方が暖かいっ」
「……」
「いっちゃんの手、おっきくて好きだよ、」
「……そー…かよ、」




私の小さい手がいっちゃんの大きな手を握って、絶対絶対離さないように。だって、こっちのほうが暖かいもん。片手にはカイロ、もう片手にはいっちゃん。暖かくて、私は幸せなんだ。ね、大好きないっちゃん。








ウィンター




ライフ





[2006/12/10]