いつもは彼女から触れてくる手を、今日はこちらからそっと包み込んでひいた。たったそれだけのことなのに心臓は暴れまわって、歩くそぶりがぎこちなくなってしまっていることにさんは気付いているのだろうか。けれどそれを悟られたくなくて誤魔化すように足を踏み出すと、そこでようやく小さな手のひらが指を折って握り返したのを感じる。 さんの手は俺のものよりもずっと小さくて柔らかい。傷だらけで硬くて、あまり触り心地がよくないであろう俺の手を、その手のひらが力いっぱい握る。そんなことしなくたって、離したりしねーのにな。こういう彼女の子どものような必死さがとても可愛く見える。俺からは決して強く握れないそれを、さんが懸命に繋いでいるので、後ろでどんな顔してそれをしているのかと思うと、思わず口端が上がった。 しばらく歩いたところでふと、普段はおしゃべりなさんが全く口を開いていないことに気付いた。こういうことすると、絶対「シズくんの方からなんて珍しいね」なんて言ってからかってくるのに。 後ろが気になって、ちらりと見てみるとさんは少し顔を俯けたまま俺に引かれるままに歩いていた。顔は見えないけれど、髪の間から覗く耳が真っ赤で、その瞬間心臓がまた飛び跳ね、歩き続けていた足がピタリと止まる。前も見ずに歩いていたさんは俺の腕にぶつかり、驚いたように肩を揺らして顔を上げた。 「さん、顔、まっか」 あまりにかわいい反応に頬を緩ませて告げると、さんは「見ないで」と視線を背ける。 いつもさんがやってることなんだけどな。独り言のように呟くと、それに反応してぐるりと首を動かして、子どもみたいにムキになりながら、だってと声を張り上げた。 だから、あんまそういうこと言わないでくださいってば。精一杯優しくしてるのに、また壊してしまいそうだ。 (だって、) (シズくんから繋いでくれたの、初めてなんだもん) |