「そういや、トムさんってさんと付き合ってるんすか?」 あまりに唐突な、脈略のない質問だったので、思わずぶほぉと喉にハンバーガーを詰まらせた。喉にあるそれをコーヒーで流し込み、「はあ!?」と声を上げると、その反応に静雄がわずかに眉を動かしたので急いで「いや、付き合ってねえよ」と簡潔に率直に伝える。すると眉の間に刻まれそうになっていた皺はすっとなくなり、いつもの大人しそうな顔の静雄がひょっこり現れて、「そうなんすか」と特に何もなかったかのようにきゅいきゅいシェイクを飲み始めた。危なかった、と先ほど吹き出た嫌な汗をぬぐい、こちらも再びコーヒーで胸を落ち着ける。 「つーか、なんでそう思ったんだ?」 「中学の時から仲良いなとは思ってたんで」 「そりゃあダチだしな」 「トムさんって、男女間の友情とか信じる方でしたっけ」 「いや、全く」 信じねえほうだけど、あいつだけはどうもなあ。昔っからそういう方面では静雄以外に興味ないのも知ってたし、そのせいか、二十歳をとっくに超えた今でも女というよりかは妹、…というより犬のイメージだ。人懐こくこっちに寄ってくるところとか、自分の感情に素直すぎるぐらいに正直なところとか。たまに正直すぎていろいろと参るところがあるけれど。 そういや静雄も何処か犬っぽいよなあ。なんだ、お似合いじゃねえの。 「まあ、けど、なんだ。あいつとはそういうことはねえから、安心しとけ」 きゅいきゅいと鳴っていた音が止まり、驚いたように目を見開き、こちらを凝視した。サングラス越しの瞼がぱちぱちと瞬きを繰り返し、あんぐりと口をあけている。池袋最強のそんな間抜け顔に苦笑しながら「いや、流石にわかるべ?」と告げると次には顔を真っ赤にさせた。自分への危機が去ったと確信して、ばれないようにほっと息を吐き、最後の一口にかぶりつく。静雄にこんな顔させんのもあいつぐらいだもんだから、中々恐ろしい奴だよなあ。 からかいたい気持ちを抑えながら、「あっちは気付いちゃいねえし、ばらす気もねえから。とりあえず、頑張れ、片想い」とコーヒーを啜り、今頃どっかのオフィスでばりばり働いているであろう彼女を思い浮かべた。 中学の時からずっと静雄を追いかけているその眼差しは、大人になった今でもちっとも変わらないままだ。まだまだ先は長いけど、頑張れ、両想い。そんな気持ちでほろ苦いコーヒーを全て飲み干した。 再びきゅいと音が鳴り、とん、と音を立ててトレーの上に空になったコップが置かれた。それから、まだ何とも言えない様子で、複雑そうに眉をひそめながら、ぐしゃりとそのコップを丸める。もしかしたら、俺とは違う想いを持ちながら、俺と同じように彼女のことを考えていたのかもしれない。 「うっす。…トムさん、そろそろ、次の仕事に行きましょう」 「ん、おおそうだな」 何年たっても変わらない距離に少しじれったい気持ちを抱いてしまうけれど、それには知らないふりをしてトレーを片手に立ちあがった。 ほんのりと暖かい陽気に眼を細める。あー、俺にもそろそろ春とか来ねえもんかね。 |