「シズくんさあ、背伸びたよね」 レモンティを口にしながらわたしが恨めしげに告げると、同じようにパックの牛乳を飲んでいたシズくんは「そ、っすか?」とあまり実感がないような返事をした。 そんなシズくんの横に半歩移動してすぐ隣に立つと、わたしは自分の頭にぽんと手のひらを置いた。それをそろそろと横に動かすと、私の髪の毛から離れたそれは空を切り、やがてシズくんの金色にこつんと当たる。ほらね、と告げながら、金に当たった左手を彼の頭の上に乗せて、八つ当たりがてらにくしゃくしゃっと撫で回した。シズくんは大人しく受け入れながら、ストローに吸い付く。それから、目線を少し上にあげると、そっか、伸びてんのか、と嬉しそうにはにかんだ。 「わたしも牛乳飲もうかなあ」 シズくんはよっぽどそれが好きなのか、しょっちゅう牛乳を飲んでいる気がする。たまにココアとかいちごミルクに手を出しているところも見かけるが、どれも乳化製品だ。よく短気な人はカルシウム不足だのなんだのと言うけれど、シズくんを見ているとそんなの嘘っぱちに見えてしまう。それともシズくんにはそんなことすら関係ないのだろうか。 存分に撫でたせいでぐちゃぐちゃになってしまった髪の毛からそろりと手を離し、ほんのちょこっとだがわたしよりも大きくなってしまった後輩を見上げた。それに気付いたシズくんが天井からこちらに意識を向けて、その瞬間目が合う。そういえば、さっき背比べしようと傍に寄ったから、今までになく距離が近い。それに気付いていないらしいシズくんがじっとこちらを見つめてきたので、はて、と首を傾げた。 栗色の瞳が逸らされることなく見下ろされて、わたしは少しだけ緊張で肩を強張らせる。ほとんど同じぐらいの、でもちょっぴりわたしより高くなったシズくんの顔がとてもよく見えた。 近い距離の視線に耐えきれなくなって、わたしが不意に視線を逸らすと牛乳を持つ手が一瞬だけぴくりと動いたのを視界にとらえた。誤魔化すように呟いて、ストローに齧りつくと、もうほとんど中身のないレモンティのパックはべこべこにへこむ。 「せんぱいは、そのままでいいと思います」 「…伸びるなってこと?」 「そうじゃねえけど、おれ、せんぱいよりもっと高くなりてえし」 だから、あんまでっかくなられちゃ困ります。 素直にこぼれる宣戦布告はにどう答えていいのやら。どうせ、わたしより大きくなるに決まってるのに、そんなことを真面目に考えていたところが、シズくんらしい。 潰れたパックを手のひらに包んで、ゴミ箱にぽいと捨てる。彼も飲み終わったらしく同じようにその中へと牛乳パックを放り込んだ。喉はもう十分に潤っている。けれどもわたしは、自分よりちょっぴりだけ大きくなってしまった成長期の後輩を見上げて、一つの提案をするのだ。わたしの希望も、彼の希望も叶いますように、と。 「ねえ、シズくん。あとで、牛乳買って、はんぶんこしよ」 |