「シズくん、頭、プリンになってるよ」

 きらきら輝く金髪からひょっこりと元の色が顔を出し始めていたのを、わたしは指をさして示した。シズくんはだるそうにまじっすか、と自分の髪の毛をつまんで見せるけれど、まあ当然、鏡でもない限りその色は自分で確認することはできない。「まじっすよ」シズくんの口調を真似しながら、その見事なまでに綺麗なグラデーションを見つめる。
 随分と馴染んだその金色に、わたしは未だに慣れることができない。元々の髪色のシズくんなんて、数える程度にしか目にしてないし、金髪のシズくんと一緒にいる時間の方がずっと長いのに、未だにしっくりこないわたしがいる。

「ねえシズくん。それ、わたしがやっちゃちゃだめかな?」
「え、せんぱいがですか」
「うん。上手くいかないかもしれないけど。やってみたいな、って」

 シズくんが少し迷っているように視線を泳がせているので、嫌だったら別にいいよと付け足すと彼はぱっと顔をあげてぶんぶんと首を横に振った。そうしたかと思うと、すぐに下を向いてしまうので、どんな表情をしているのか、わたしには見えない。

「じゃあ今日うちでやろっか」
「……今日、っすか」
「あ、もしかして用事とかあったりする? なら違う日でもいいけど」
「や、今日でいいっす。今日がいいです!」

 いつもはどこか静かでぼそぼそと喋ることが多く、それ以外だと怒声をまき散らすことくらいしかないシズくんが、珍しく焦ったように声を荒げた。急いだように顔をあげた彼と視線が合ったが、一秒立たずに逸らされてしまう。可愛いなあ。
 じゃあ放課後ね、と声をかけると彼はこちらを見ないままこくんと頷いた。そんなシズくんのグラデーションかかった髪にそっと手を乗せると、シズくんは逸らしてしまった視線をゆっくりとあげてこちらへよこす。指の間を抜ける痛んだ髪は正直心地がいいものではないけれど、それでもわたしは躊躇うことなく頭の上に手のひらを滑らせた。

「せんぱいって、撫でるのすきですよね」

 あのね、シズくん。金髪になってから、喧嘩の数は減ったけど、その分シズくんを怖がる人は増えたよね。暴力を振るうことにも恐れられることにも傷ついて。そのせいかな、シズくん。もう癖に近いもので気付いていないかもしれないけれど、わたしが触れるたびに一瞬時が止まったかのように固まって、その後は頬をゆがませて、嬉しいんだか悲しいんだかわからない顔で笑ってるのよ。

「うん、すき」

 いくら外見を繕ったって、この子の本性はこのグラデーションのようにそっと顔をのぞかせる。誰も彼も金色ばかりに目を引いて、触れられることに過敏になってしまうぐらい臆病なこの子の本質には触れてくれないのね。